M&Aの会計処理とのれんの償却について
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p.228の「のれん(別名: 営業権)」の処理について。3.5「創立費」の繰延資産つながりで「のれん」の話をしたんだけど、それについて、答えられなかった部分を含めてちょいと補足。個人的には会計と経営の交わる面白い所だと思う。
まず「繰延資産」とは、
問題: 将来にわたって関わる費用を、発生時にP/Lで一括処理すると会社の実際の姿を正しく反映できなくなる。
解決: 発生した費用を「資産」として計上し、それをある年数で徐々に費用処理して消して行く(ビルや土地などの固定資産を思い出してください)
という考え方から産まれたもの。で、「のれん」には二つの見方があって、
会計的視点: 会社の買収価格 - 会社の純資産額
意味的視点: ある純資産と、それに対する価値評価の差を資産として表したもの
となる。
A社がB社を吸収合併したとすると、会計的には、A社のB/SにB社のB/Sが入り込む。このとき、B/S左側の資産と、右側上部の負債、この二つはそのままA社のB/Sに書き込まれる。問題となるのは純資産の部で、買収金額(対価として現金を渡したりA社の株式を発行して渡したりと色々あるんだけど、どちらにしろ対価の「額」を問題とする)と純資産額の大小によって、「のれんなし」「のれん」「負ののれん」の3パターンに分かれる。
買収金額 = 純資産額
まず、シンプルに株の100%をそのままの値段で株主から買ったとする。このとき20万円の出費と20万円の純資産の部は釣り合い、そのままB/Sに足し合わされる。のれんは発生しない。
ちなみにこの20万円というのは「時価総額」のことと考えていい。つまり 株価×株式発行数 で表される額。
買収金額 > 純資産額
誰かが20万円の株式を持っているとする。突如、どこの馬の骨とも知れない会社(?)が「その株を20万で売って下さい」と言って来たとしても、はいそうですかとは言えないことが多いだろうし、会社の創業者一族など、会社に近い立場にいる株主ほど売却を渋るのが想像出来ると思う。
株主が渋ったのか、双方にメリットのある価格を議論した結果だか知らないが、ともかく純資産額よりも多い価格で会社を買ったとき、「のれん」が発生する。
p.228の例で行くと、純資産20万円のところを40万円支払った場合、差額の20万円が「のれん」となる。
のれんは「営業権」として固定資産>無形固定資産の部に記載され、毎期償却されて行く。残存価額はゼロなので、例えば20万円を10年で償却する場合だと毎期2万円ずつ費用処理されていく。ちなみに費用処理する時の項目は「販売費および一般管理費」で、「特別損失」や「営業外費用」に入れる事は出来ない。
のれんは、企業結合会計基準により、20年以内に償却する決まり*1となっている。償却期間は恣意的に決定出来る。僕が勉強した時は商法の規則が優先されて最長5年の償却だったが、2006年に商法の記述が消去され、会社法の20年が適用されるようになったらしい。
のれんの意味
会計処理から離れて「のれんの意味」を考えると、のれんは「形として見えない会社の価値」「超過収益力」と言える。
かといって、たとえば「うちの会社は副社長が2時間睡眠で働けてしかもガンガン取引成立させて来るから、1億円の資産として計上しよう」だとか「取締役に芸能人がいるのでブランド力があるが、これには2億円の価値がある」などと自社で決めて組み込んでしまうと、せっかく画一化した会計の仕組みがカオスになる。なので認められていない。
のれんが発生するのは「有償取得」時のみであり、会社あるいは事業を「まるごと外から評価」して「B/Sに組み込む」機会のみ、となる。これが買収だったり、合併だったり、営業権の譲渡だったりするわけです。
買収金額 < 純資産額
面白いのは、「のれん」は買収金額の額に応じて負の値にもなりうる所だ。要するにB社の資本金は20万円だけど、それを10万円で買ったような時。事業がうまく行ってなかったりすると、純資産額よりも安い値段で会社を買うようなケースが出て来る。
このとき、B/Sには固定負債の部に「営業権」と表記される。これを順々に減らして行くには、毎期のP/Lで営業外収益として計上することになる。純資産20万の会社を10万円で買ったとすると「負ののれん」は10万円で、これを20年以内の年数で均等に償却して行く。これも残存価額はゼロなので、例えば10万円を10年で償却する場合だと毎期1万円ずつ収益として処理されていく。ちなみにP/Lの項目は「営業外収益」に入る。正ののれんは営業活動だけど、負ののれんは営業外に入る点に注意。
こんなところで。いろいろ間違いもありそうだが、見つけたら修正しよう。。。
疑問と自己解決
- 持分プーリング法/パーチェス法の議論では、時価評価するパーチェス法の時のみのれんが発生する、と書かれる事が多いが、持分プーリング法の時でも、対価の額によって左右のバランスが崩れ、のれんが発生するのでは?
- その二法が問題になるのは、株式を対価とした合併の場合だ。つまり、会社を現金で購入するのではなく、自社(A社)の株式と交換でB社の株式の100%を入手する場合。対価が多いとか少ないとか関係ない。
- ちなみに2008年12月をもって、日本でも持分プーリング法は廃止されている!
- アメリカの会計基準ではのれんを定期償却しない。代わりに年一回の減損判定を行い、減損が認められた時に減損処理。
- つまり日本「のれんは時間の経過で価値が減って行く」アメリカ「価値は減っていかない」という主義。