内定者による早朝Skype勉強会の効用と、基礎知識に関して思う事
「動機があり能力があり資質があるならそこには実践がある」
いい言葉だ。舞城王太郎の煙か土か食い物の一節なんだけど、うちの内定者たちを見てて思い浮かぶのはこのフレーズに近い感覚である。呼吸するように苦難を楽しむこいつら大好きだ!...とノロケるのは別に本題ではなく、今日の記事は数週間前から開催している早朝内定者勉強会についてのアレコレ。これが、予想以上に素晴らしい。
早朝と言っても学生にとっての「早朝」で、7-8時の1時間なので社会人にしたら「遅ぇよ!」となりそうだけど、まぁ、だらけた院生にはかなりいい刺激になっている。現在週二回開催されていて、「会計の日」と「プログラミングの日」に分かれてやってる。具体的にその内容は
- id:Hashによる財務諸表の読み方講座
- id:rindai87によるC言語基礎講座
- 内定者が主催する採用イベントの会議
- これは、前二つの勉強会後に雑談的に進めている
こんな感じだ。勉強会が始まった経緯と、初回の会計講座のメモはrindai87のこちらの記事にも書かれてる。会計の基礎がいい感じにまとまっているので、そこを目的に目を通してみても損はないと思う*1。
さて僕は、早朝勉強会の形式やちょっとしたコツ、工夫、その他基礎知識について思う所を、僕の得意とする経験からのエッセンス抽出と戯言デコレート法を利用して書いてみたいと思う。
こんてんつ
- 勉強会の形式
- 朝に勉強会を開催する効用
- 学習効率化の工夫、試行錯誤
- 基礎知識の「桶」について思う事
- 基礎知識に関する戯言: プログラム編
- 基礎知識に関する戯言: 会計編
- 学習と教育、知識の共有などの所感
勉強会の形式
勉強テーマは「会計」と「プログラミング」
僕が一応簿記資格を持ってる こともあり、会計講座を担当している。テキストはこのブログでも何度か紹介しているこの本。
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これが本当に分かりやすくて素晴らしい。二人の反応を見る限り、財務諸表の成り立ちや会計処理がすんなり頭に入って来る構成であるようだ(二人が優秀なのかもしれないが)。基本はこの本に沿い、応用的な概念とか簿記の仕訳処理なんかを、僕が雑談的に喋りながら進めて行ってる。
一方、情報系院生であるところのrindai87がC言語講座を担当しており、突然生徒にプログラムの意味を説明させたり、ライブコーディングが始まったりと、なかなかにエキサイティングな講義をかましてくれる。テキストは
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これなわけだけど、第三の内定者K氏(idコール出来ないので早くはてなIDを取るんだ!)はプログラム未経験だし、僕も基礎がガタガタ(後述)なエセRubyistだったりするので、printfとかdouble型とか、本当の基礎の基礎からやっている。
1vs2の講義形式
2010年度入社の内定者は3人なので、講師1人、生徒2人の1 vs 2の講義形式で進めている。「比較的わかる人が全くわからない人に教える」ことにより、教えられる側はもちろん教える側も理解が深まるし、テーマ以外に「教え方」自体も勉強できることになり、一石で何羽鳥落としてんだよ!みたいな気分である。
この人数は偶然ながらもなかなかいい割合じゃないか、と最近は思っている。マンツーマンに近い密度で話しながらも、講師は複数人に対する説明を展開出来るし、聞く方もある程度余裕を持つ事が出来る。2人が喋ってもう1人が付いて行けてないとさすがに気が付くのも3人だからこそ。基礎からやっていく時は、このくらいの人数がちょうどいいんじゃないかと思う。
朝に勉強会を開催する効用
「朝」であることの効用をつらつらと。
夜型生活を営む正しく正しい院生に、果たして早起きができるのか?しかも継続的に?という不安があったものの、いざやってみると出来てしまうものだ。出席率は現在の所100%で、遅刻もない。さすがに週二回早起きしてるとだんだんクセがついてきて、目覚ましをかけなくても6時ごろに目が覚めるようになる。
早起きに関する文脈で言い古された事ではあるが、朝に勉強会をやることで一日が有意義に使える。じっくり勉強して、会議もどきもやって、くだらない雑談もやって、んじゃまた次回ー、とSkypeを落としてもまだ9時だったりする。素晴らしすぎる。
また、朝に勉強すると、アタマがまだ疲れていない時間帯であり、後の予定が詰まっているため、短い時間に集中して頭を働かせるので、効率がいい。
この夏に内定者3人が結託して社内イベントを企画したんだけど、この時は週一回、主に夜に集まっていた。この時は悪ふざけモードに入って本題が進まなかったり*3、眠くて集中力が散漫になり「あ、ごめん今の聞いてなかった」みたいなことが多々あったんだけど、それに比べ、早朝勉強会は週二回と頻度は多いはずなのになぜか負担に感じない。これはすごい。
孤独な「勉強」ではなく「勉強会」というところがまたミソで、「開始」までの強制力がとてもいい感じに働いている。他人との約束だから嫌でも起きて寝ぼけながらも開始するし、いざ始まってしまえば作業興奮というヤツで、やる気も出てくる。
学習効率化の工夫、試行錯誤
内定者という同じ立場でありながら「講師」と「生徒」を循環していることが(少なくとも僕にとっては)すごくいい方向に働いている。それは何かというと、両方の立場からフィードバックとトライアル&エラーを繰り返す事により「学習の効率化」についてどんどん理解が深まることだ。講師側の工夫、試行錯誤中のtipsなどをいくつか書いてみる。
基本的には、ただ話を聞く/本を読むよりも自分で考えた方が学習効率がいい。例えば僕とrindai87が試みているものとしては、
- 復習セッションで、資格試験の過去問を出題する
- 会計講座では、前回の講義で学んだ知識で回答出来る問題を「証券アナリスト一次"財務分析"」の中から適当に選んで、勉強会開始後5分をクイズ形式の復習タイムにあてる
- 宿題、次回までの課題を出す
- プログラミング講座では、各章の練習問題を一題指定して、次回までに各自コードを書いて来るという宿題が出る
- 各自がどんな考えで書いたかを説明して行く。簡単な問題でも一人一人書き方が違って、すごく勉強になる。
- 持ち回りでテキストの説明を担当する
- これも宿題と同じく、予習が必要になるのでいい感じ。
などだ。rindaiは時々パワポで簡単な資料を用意してくれる。rindaiの講義を見てまた僕も学んで、ちょっとやり方を変えてみたり。人に説明するというのは難しくも実りある作業ですね。
基礎知識の「桶」について思う事
ちなみに内定先が金融ITベンチャーだから、というわけでもなくはないが(どっちだ)、勉強テーマを決めるにあたってメールで議論した結果「財務諸表の読み方」と「C言語基礎の基礎」となった。この議論の途中で候補に挙がり、ボツ(もしくは後回し)となった内容は例えば以下のようなものがある。
- 証券アナリスト資格試験の対策
- 競合他社の財務諸表を読み解いてやろうぜ計画
- 『プログラミング言語C 第2版』(いわゆるK&R)
- データ構造とアルゴリズム
- Rを使ったデータマイニングあれこれ
- と、それをいかに金融データに応用するか
- iPhoneアプリ開発
- Webアプリケーション的なもの
これらを差し置いて「財務諸表の読み方」と「C言語入門」を選んだ、つまり、「基礎」に重点を置く選択をしたわけだが、この判断はとても正しかったと今になって思う。基礎の重要性についてちょっと思う所を書いてみる。実感込み込みで。
けだし基礎知識とは「桶」のようなものだ。「桶」が汲む事の出来る水の量を決定づけるのは最短の板の高さであり、最長の板がどれだけ長かろうと、短い板があれば、そこから水が抜けてゆく。大きく見えても水の汲めない桶に、存在価値はない。
id:rindai87には「Hashはブログ読んでるとそれなりに高度なことやってるのに、話を聞くと"えっ、ここがわからんの!?"ってところで悩んでたりする」と言われたのだけど、僕の知識は非常に歪だと思う。つまみ食い好きな、拡散する好奇心を持つが故の性というやつか、要するに移り気だから基礎からしっかり積み重ねて来た分野が極めて少ない。恥ずかしながら。
基礎知識に関する戯言: プログラム編
C言語の足し算レベルから初めて、今はループとか条件分岐とかやってるわけだけど、rindai87の経験でフィルタリングされた上でさくさく進めて行くため、独学よりも効率がいい。
たとえば初級者に対しては「おまじない」として考えないことを推奨する
int main(void){ return(0); }
このへんが僕にとって気持ち悪かった*4んだけど、最初に時間をかけてこの意味を説明してくれたり*5、また、if文と論理演算子・関係演算子に関して個人的にすごく合点が行った例を挙げると、
これはまず
この部分が評価される。たとえばn1=20,n2=1の時、評価結果は以下のようになる。これは「>」という関係演算子が「左が右より大きいとき、評価結果は1となる。そうでなければ0となる」というルールに基づいているため。
そして「||」という論理和の演算子は「右と左の一方でも非0であれば評価結果は1、そうでなければ0」というルールなので、この場合if ()のカッコ内は以下のようになる。
そして、ifは「()内が非0なら続く文を実行し、0ならelse以下が実行される」ので、if (1)であるこのケースでは四角で囲った部分が実行されるというわけだ。
「なに今更当たり前の事を言ってんだ」という感じだろうが、僕はこれで初めて
という単純なSyntax的ルールと、「if(文)の文が"成立"するかどうかで条件分岐」というSemantics的な概念が頭の中で繋がった気がした。
本当に僕は頭が悪いのかなんなのか、申し訳ないくらい理解が遅い。冗談じゃなく、納得して次に進むために人一倍時間がかかる。だから、今までid:syou6162やid:wakutekaが開催したRや統計の勉強会*7に参加させてもらった時も、正直他の人の理解が速すぎて*8付いて行けなかった。その点このC言語勉強会は理解の遅い僕でも積み上げて行く事ができるので、すごく助かっている。
かといって、理解が遅いから、と一々お手上げしていては話にならないのも現実。走りながら考えないといけない。内定先の副社長の言葉を借りれば「論よりRun」なのである。実践で使えるようなスキルをその場その場で学んで行くことも大事だと、頭ではわかっている。基礎から積み上げるボトムアップと必要な事だけ効率的に学ぶトップダウン、そのうまい融合法を未だに見つけられずにいる。現在の僕の課題だ。
基礎知識に関する戯言: 会計編
会計というのは本当によくできたシステムで、すべてが規則に従って動き、論理的で「しっくり」いく感じが僕はとても好きなんだけど、これはプログラミングがおもしろいと感じる人はたぶんハマると思う。現にrindai87も勉強会を切っ掛けに興味を持ったらしくて、つい先日僕が会計天国という良本に出会えたのも、会計に開眼したrindai87のオススメを受けてのことだ。逆輸入みたいな感じ。違うか。
ちなみに「簿記と会計の違い」について偏見たっぷりのざっくり分類をしてしまうと「簿記はボトムアップ、会計はトップダウン」だと思う(突込み・ベターな表現の提案は歓迎です)。
これじゃあまりに投げっぱなしだと言うなら、id:gothedistance先輩が「簿記と会計の違い」についてまとめた記事が人気簿記と会計と財務の違いについてまとめてみた - GoTheDistance なので、参考にどうぞ。
簿記は一つ一つの取引を仕訳に表す所から始まり、どんなに煩雑な処理であっても、本質的には何らかの仕訳の形に書き下せる。これが複式簿記の面白くかつ美しい所であって、簿記を学んで「ボトムアップ」で積み上げて来た人はこれが大きな武器になる(僕がその武器を使いこなせているかというと「...」なんだけど)。
一方「会計」...今回の場合、「財務諸表の読み方」という勉強会テーマに即した文脈で語ってしまうんだけど、簿記というテクニックを使って作成した、組織単位の状態を表した「結果」が財務諸表だ。僕らがやっている勉強会のように、簿記を経由せず財務諸表を学ぶことはある意味「トップダウン」であり、細部を無視してざっくりした全体を概観することを優先する。なんどもオススメするけど、勉強会テキストに使ってる決算書がスラスラわかる 財務3表一体理解法はトップダウン理解に強い良書です。
ボトムアップを経験した1人vsトップダウンで学ぶ2人、という構図は案外一般的に通じるんじゃないかと思った。直感だけど。
しかし会計の勉強会をアレンジしてみて最も痛感したのは、何事も資格だけでは無意味だな、というこれまた当たり前の事。
TOEIC945点でも英語を喋ったりせめて書いたり出来なければ無意味な数値だし、情報技術者資格を持ってなくても腕が良いプログラマなら一緒に仕事したい。資格は学歴と同様に判断基準/指標のひとつに過ぎず、「他のすべての条件が同じなら」「平均してこの資格を持つ者はこれだけの能力を持つ傾向がある」という但し書きが付いている、と脳内で補完すべきものだと思う*9。
要するに、知識は実践で使えなければ意味がないわけで、机上の勉強が骨格だとすれば「肉付け」の作業が必ず必要になる。まぁ勉強会も机上には違いないが、自分の理解を言語化し、他人の思考をイメージしてなるべく分かりやすく伝える...という作業は、実践には及ばないものの、いい「肉付け」になっているのではないかと思う。
学習と教育、知識の共有などの所感
語るときに決定的に重要な要素はおそらく血の通った「経験」だ。
18年に及ぶ学生生活から推察するに、おもしろい授業とおもしろくない授業の決定的な差はここにある。すなわち、教師が「経験」を元にして語っているかどうか、そして生徒がその「経験」を疑似体験できる程のリアリティがある、もしくはイメージを膨らませる工夫が施されているかどうか、である。語ることの出来る人が語り、聞く者はそれを擬似的に経験する事によって学ぶ。
僕はブログで自分の思考を展開するのが好きだし、紙の日記帳に(主として公開できない類いの)感情を書きなぐることも、小学生の頃から続けている。僕が思考および感情の文章化を好む理由は、それが変化するからだ。たまたま手に取った本の一節でパラダイムがひっくり返るかもしれないし、明日には今の気持ちが消え去って別の感情が沸き起こるかもしれない。故に僕は、読み手が他人であろうと自分だけであろうと、とにかく現在を書き下すことを好む。
今回の話で言うと、簿記を学んだ経験を元に今度は教える側に立ってみて、軽く目から鱗が落ちた気がする。僕を僕たらしめている独自性の一部を切り取って分け与えるような感覚で、これが案外悪くない。僕の顔をお食べ。
無能で無力だからと自戒するのもいいけど、自分が持っているものに自信を持って、それを晒し、向上させ、共有する方がよほど生産的なのだろうと思う今日この頃である。知識の占有にどれほどの意味があるのか、今となっては疑問だ*10。
こうして自分の考えが日々変わって行く過程を見るのはとても楽しいので、死ぬ直前まで「昨日の自分は馬鹿だった」と思っていたい。まぁそんな感じに、話が誇大化したところで切り上げるとする。明日は僕の会計講座#4だ。期末処理に入るかどうかという所で、だんだんおもしろくなってくる!
*1:自分の講義のまとめを持ち上げる事による間接的自画自賛メソッド
*3:これを僕らの間では「邪神が降りて来た」と表現する
*5:もちろんテキストには書いてない
*6:もっと細かく言えば二項演算子で、右と左をあるルールで評価した結果、(左operand+演算子+右operand)がまとめてひとつの値になる
*7:現在進行形で顔を出している勉強会もある
*8:もしくはみんなの会話の土台となっている前提知識を僕が持っていないため
*9:もう少し学歴について脱線して言えば、高学歴がもてはやされるのは「効率の良い努力の方法を知っており、実際に結果を出した」証明に他ならないからだ。まぁ、入学はともかく卒業が容易な大学が多いため、学生時代にダラけまくったかどうかまでは見分けにくいのがネックではあるが