ミームの死骸を待ちながら

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators. We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators. - Richard Dawkins "Selfish Gene"

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators.
We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators.
- Richard Dawkins "Selfish Gene"

内定式(?)で入社前に予習した仕事のエッセンスが感動的だった件


人生に一度きりしかない経験はいくつかあって、「新卒入社」もその一つに数えられる。10月の頭には内定式が行われる企業が多く、僕の内定先でも御多分に漏れず内定式があった...ことはあったんだが、かなり他とは毛色の違う内定式だったようだ。
社員さんや外部の社会人のお話などを聞いたものの、"式"の比率は全体の10%程度で、残りは1日かけて外部講師を招いた"研修"を受けていた。これが今回の題材である。ちなみに内定者は3人なんだけど、若手社員さんも加わっての研修ということで、新人研修的な側面もあったようだ。


本来は数日かけて行う内容を1日に詰め込んでいるし、とにかく厳しいよと事前に脅されていたので最悪の事態を色々と想定していた。肉体的に辛いのか(どこかの外資金融みたいにロッククライミング)、脳味噌的に辛いのか(とりあえず今日1日でサービスリリースしてね)、精神的に辛いのか(貴様ら内定者ごときにウジ虫ほどの価値も無い!無能の分際で酸素を消費し続けている事を恥じろ!


...いざ蓋を開けてみれば、時間こそ長いものの比較的正当派な研修で*1あり、仕事で「ほんとうにたいせつなこと」をグループワークと実例を通じて考え、学ぼうというもの。コンセプトは"Essential."


ところで僕の悪い癖のひとつは斜に構えて物事を見がちなところなんだけど、今回はあらかじめ最悪の事態を想定していたし、自分の無能さをひしひしと感じているここ最近だったので、変に「ああ、これは本で読んだな」「要するにあの理論か」などと達観せず、ひとまずすべて忘れて素直に聞くことにした。心がけとしては

  • 素直に聞くこと
  • 復習すること
  • 実践すること


の3つ*2。それぞれ、その場、後日(この記事が復習に相当)、日々の仕事(研究)で実行する。
結果を言うなら感動的なほど勉強になった。言い過ぎ?まあいいや。席が最前列で講師の方と最接近していたため内容に没頭できて楽しめたし、内容も、少人数クラスで入社前の学生に受けさせるには勿体ないくらい良いものだった(と思う。今の僕では価値を正確に測れていないかもしれないが)。


僕は学んだ事を自分の言葉でまとめてネットに放つことを生業としているので(はい、今適当な事言ったよ!)ここには実例を除いたエッセンス(結論)と少々の解説および感想をまとめる。仕事を始める前に学んだ気になった仕事の法則、とでも題せようか。


こんてんつ

  1. シューカツモードで挑んだ
  2. 生産性と競争力をバランスする
    • 実際の仕事ではどうすればいいのか
  3. 会計を念頭に置いて仕事をする
  4. 仕事の「責任」とは
  5. セールスマインドとは何か
    • 営業が一番偉い?
  6. 本来業務と付帯業務の分解
  7. まとめ的な。

シューカツモードで挑んだ


研修の概要を聞いて、なるほどグループワークのようなものか、と、久しぶりに脳味噌をシューカツモードに切り替えてみた。シューカツ脳の特徴は

  • 自重せず積極的に質問、参加して撃沈する(黙っているよりずっといい)
  • 歯の浮く言葉使い、テンプレート通りの予定調和に対する嫌悪感センサーをOFFにする


これが正しいのかどうかは知らないが、もとより内定者に正しくある事など期待されていないだろう。ならノリでやった方が楽しい。というわけで初回リーダー役に挙手した。こういった場では、二番目以降の方が失敗し辛くなるのが常だ。...まあ予想通りというかなんと言うか、見事に失敗して突っ込まれまくってたんだけどな...

しかしもっとこうシャキシャキ動いたり喋ったりできないものかね僕は。声小さいし。最近はだいぶマシになって来たんけど、まだダメだ。


生産性と競争力をバランスする


リーダーは、別室でチームの作業内容を講師から伝達され、その際作業時間を交渉する。この時講師は「作業時間を短くしたがる」ので、どこまで妥協するか考えないといけない。これは、実際の仕事では「納期や価格の交渉」に相当する。

  • チームの処理能力を超えて請け負う時間(納期)が短すぎると、時間内に作業が終わらない(納品出来ない)
  • だからといって時間を長く見積もると「それじゃかかりすぎ。別の所にお願いするからいいよ」 となる


で、僕はと言えば。相手の押しに屈して納期を短く伝えると期間までに完成せず炎上、信頼失墜につながることを身を以て体験した。うひー。こうなると自社の信頼はもちろん、取引先の担当者はもちろん、その指揮系統の顔も潰れる。顔全滅。


実際の仕事ではどうすればいいのか

そこで社員に求められるのは、自分自身を含めたチームの生産性productivityを正確に把握し、チームの仕事量を、その限界を超えないか、超えても120%のコミットでカバーできる範囲に収める事。最速で成長して行くには、常に120%の負荷をかけ続ける事が大切だ。


最初は見積もりを誤って失敗するかもしれないが、フィードバックと修正を繰り返す事で、ほぼぴったりの予測が出来るようになる。このスキルを身に付ければ、例えば追加の要求を受けても「この取引先はなんとしてもキープしたい」などと後の重要度も考慮して、瞬時に「その作業量でしたら、追加コストこれくらいで納期プラス1週間で対応出来ます」などと答える事ができ、それがほぼ100%当たるらしい。



以上をふまえた上で、現在を見てみる。まずは自分自身の生産性を把握する所から始めよう...絶望的に低い生産性が露になっても、それを認めてじりじり向上させるしかない...。中二病は卒業する と自分で書いたじゃないか。


以前の20分筆記 は、直感で書く文章の特徴 に加え、自分が「書く」だけならどれくらいのスピードが出せるのか測定するいいきっかけになった。 こんな感じで他の作業についてもlogを取って自分を数値化しておけば、だんだん出来る事と出来ないこと、出来るとすればどれくらいで出来るのか、出来ないとすれば何が足りていないのか、というポイントを見抜けるようになるだろう。


会計を念頭に置いて仕事をする


売り込む際大事なのは「あれができます」「これもできます」と押しまくることではなく、具体的で確実なメリットを提示する事。この際、売上を上げるのではなくコストを削減することを考える。なぜなら売上がどれくらい上がるか、なんてことは誰にも予想出来ないからだ。
普通に考えると新しいシステムを導入するとコスト増だが、例えば

  • 既存のシステムの維持費よりずっと安く運営出来る
  • 固定資産を持たなくてもよくなる(ASP型)

などのメリットが数値として見え、しかもシステム自体の性能も良くなるとなれば、入れ替えない方が損だ、という判断になる。お買い上げ決定だ*3
これらを会社規模で把握するために必要となるのが、会計(accounting,経理)の知識だ。「いち社員も経営者視点で仕事をしろ」と言われる一側面が、このエッセンスだろう。P/L(損益計算書)から最初の部分を抜き出すとだいたいこんな感じになっている。

売上
△原価
△販売費および一般管理費
営業利益

先ほどの「新規システム導入」はこの表の中の「販売費および一般管理費」に相当する。


このように、経理/会計の知識を活かす事で、効率的に仕事を組み立てることができる。僕が簿記を持ってることでちょいちょい話を振られたんだけど、昨年偉そうに簿記の勉強法についての記事を書いた くせに、ぽろぽろ忘れてて焦った。やばい。復習せねば。


そう思っていた矢先、講師の方におすすめされた本は↓。その日のうちにAmazonで注文。届くまで軽く復習として <女子大生会計士の事件簿>世界一やさしい会計の本ですを読みなおすかーと思ってたら読み終わる前に届いた。プライム会員おいしいです。


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さっくり速読してみたところ、P/L, B/S, CS (CFと呼んでた記憶があるんだけど) の「流れ」「つながり」「全体像」をしっっかり押さえた上で平易な言葉で解説している。そういえば、簿記を勉強してた頃、3表の時系列のつながりに気付いたときは感動したことを思い出した。この本が優れているのは、会社の行動(資金を集めたり投資したり売ったり買ったり)ひとつひとつを数値とともに取り上げ、その一手で財務諸表がどう変化するのか丁寧に解説している所だ。簿記の基礎知識という骨格に肉付けがなされて行く感覚!いや、感動した。読み込んでおこう!

会計の概要を自分なりに図&言葉で解説した記事も書きたいな。書きたいネタはたくさんあるんだがなぁ...


仕事の「責任」とは何か


仕事の文脈*4で「責任」と言ったとき、それは何を意味するのか?答えは

「やり抜くこと」

というシンプルなものだ。この定義に沿えば、失敗して「責任を取れ」と言われた時に辞表を出すのは逆に無責任、ということになる。ペーペーの社員が持っているものは熱意くらいしかない。内外に頭を下げて、食いついて、なんと言われようと最後まで終わらせる。それが「責任」だ。


...この辺、個人的に一番心にぐさぐさ来るところ。なんと言っても責任感がない(自分で言ったら終わりだ)。逃げる。易きに流れる。ふらふら。"やり抜く"覚悟と根性が足りてない、興味関心が持続しない点が多いに問題アリだ。たとえ熱意があってもそれを熱く伝えることが苦手で、いっつも冷めてると勘違いされる。
などと考えていると、いつの間にかノートの余白に3回ほど「逃げちゃ駄目だ」と書かれていた。や、本当に逃げないようにしよう。


セールスマインドとは何か


物を売るわけだから、「お客さんのニーズを汲み取る」とか「相手と自分の利害の調節」とか、そういった答えかと思ったのだけど、

「配慮」

だそうだ。利害の前に、人間としての心配りがないといけない。わかりやすいように資料を作る、納品するプログラムにコメントを付ける、約束と礼儀を守る、など。

そしてもう一つ頷いたのが「お客さん」はエンドユーザーだけではない、という視点。同僚や上司、部下も「お客さん」として扱うべきというものだ。
「後工程はお客様」という言葉がある。ちょっとした気配りを忘れない。こうしておくとアイツ仕事がやりやすくなるな、というひと手間を惜しまない。いつも一緒に働く人に気配りが出来ないで、どうしてとっさにお客さんに対する気配りができるというのか?葉隠』から


「いざという時、それは今」


というフレーズを引用され、得心がいった*5


営業が一番偉い?

極論してしまえば、営業がいないと仕事は回らない。ピッチャーがまずボールを投げないと試合が進行しないのと同じく、仕事を取ってくる人が居ないと始まらない。いいものを作れば自動的に売れるというのは幻想だ。エンジニアが営業を見下しているうちはろくな仕事ができない。
なるほどそういう見方があるのか。天才セールスマンは、そこらへんのボールペンでも高値で売り込んでしまうという本当かどうか分からない逸話を耳にした事がある。
これに対して、投げるためのボールを作らないとピッチャーも存在価値がないだろ、などと言い始めると卵か鶏かの議論になって不毛の兆しが。。。仲良くしようぜ。


本来業務と付帯業務の分解


本来業務とは、自分の仕事の本質、最大の目的、価値を出すべきポイントを差す。それに対して、本来業務以外の仕事はすべて付帯業務である。
優先順位は圧倒的に本来業務が上で、付帯業務は本来業務を支えるために時間を割いているに過ぎない。例えば営業の本来業務とは何か?それは「訪問」すること。アポイントも報告書作成も会議も、すべて「訪問」のためにあること、と捉える。
これを自覚せず、ただ目の前にある仕事をこなして行くだけだと、本来業務を圧迫するほど増大(例えば先ほどの例で行くと、報告書作成の量が膨大になりすぎて訪問なんてしてる暇がない、という状況)してしまう恐れがある。働けど働けどなお我が成績上がらず、ぢっと手を見る。


そこで、一日の自分の行動をリストアップした後に"機能分解"、すなわち本来業務と付帯業務に分解する。
次に必要なのは付帯業務を減らす事であり、それによって本来業務の時間を確保する事である。したがって以下のような方法をとる。

  • 付帯業務を朝と夜にまとめてやってしまう
  • 付帯業務を他の社員に委任する

...など。このへんは色々流儀がある*6し、世のライフハック書物/webが詳細を教えてくれると思うので深入りはしない。言いたいことは、繰り返しになるが

  • 日々の仕事を本来業務と付帯業務に分解

すること。ここがキモ、Essenceだ。かと言って付帯業務が無ければいいというわけではなく、むしろ無くては本業が成り立たないので誤解されぬよう。


ちなみにこれを聞いて合点がいったらしく、後ろの席でid:rindai87がしきりに感心していた。飲み屋で聞くと「いや、社会人にライフハックが必要な意味がわかったわ」などと感動していた。気持ちわかるぜ。
ちょうど明日は一週間の始まりなので、今のお仕事(まぁ修士論文研究、なんだけど)に関してこれを適用してみる。


まとめ的な。


以上。研修内容は奇をてらった物ではなく、むしろ古典的であるという印象を受けた。本質とはそういうものかもしれないし、少なくとも形式ばったテクニックを詰め込むよりずっとためになる。考えるための"種"を植え付けられた感じか。


しかしここで「なるほど!」と思ってもたぶん本当に身に付いてないんだろうな。実際に体験してようやく腑に落ちる。「あたりまえのこと」を本当にわかって、しかも実践できてる人はものすごく少ない。守破離」で最後には型を捨ててしまうように、「本質はこれだ」と一言で表したものが腑に落ちるまでには、ずいぶんと長い道のりを辿る必要があるように思う。撒かれた種を育てる必要がある。
それでも、全部手探りで見つけるよりはショートカットできる。そのわずかな短縮こそが世代を重ねる事の価値だろう。

20年かかって習得したものを、次の世代には5年で身につけさせる。そうすることで残り15年で「続き」に取りかかれるし、さらに難しい事を達成できる*7
こうやって「人を育てる」視点は、どちらかというとドライな外資系よりは日本の大企業に通じる所がある。ただ風通しがいいだけ、自由なだけ、新しいだけのベンチャーではなく、日本的な所も持っているあたりが好きだ。


僕には、ポテンシャルなんてろくにない。見えない可能性は存在しないことに等価だ。だから僕は見えているものがすべてで、要するに無能の権化のようなもんだ。そんな自分を、とことんひとりの人間として見た上で期待をかけられると、なんというか...やるしかないという気になるな。


研修終了後

Hash「...勝ったな」
rindai87「ああ、全くだ」

*1:研修というものを受けたのは初めてなので、正当派というよりもイメージから外れていなかった、というべきか

*2:自分で素直とか言っても超当てになんねえ

*3:もちろん初期導入費用を考える必要があるし、何ヶ月で損益分岐点を超えるのか、何ヶ月or何年契約なのか、と言った事も考える必要がある。 そもそもちゃんと説明通りのものが納品されるのか(ここで企業や人への信頼が効いてくる)という問題もある

*4:道義的な責任と混合されてはならない

*5:「君、葉隠って知ってる?」と聞かれて「...忍者ですか」と答えたことは秘密だ

*6:朝に本来業務を片付けた方がはかどるという人も居る

*7:個人的に、いわゆる「教育」の中でただの知識インプットに過ぎないものは、時間をかけず脳味噌にインストールできりゃいいんじゃねと思ってるんだけど、SFの話は置いといて。