僕は釘に打たれて死ねるのか
コトリバコ、という言葉を聞いたことがあるだろうか。
2005年あたりに2chで話題になったらしく、オカルト板では有名な話だそうだ。僕は数ヶ月前に知った。読んで、(School Days最終回ほどではなかったが)気分が悪くなった。現在も派生して議論が行われているのかどうか知らないが、コトリバコまとめページも存在する。
Sちゃんが俺の部屋まで上がってきました。
Mは顔面蒼白ってかんじで、
M「Sちゃんよ・・・・ 何持ってきたん?出してみ・・・」
S「え?え?もしかして私やばいの持ってきちゃった・・・のか・・な?」
M「うん・・」
S「これ・・・来週家の納屋を解体するんで掃除してたら出てきたん」そういってSちゃんは木箱を出したんです。
コトリバコ
20cm四方ほどの木箱でした。電話でパズルって言ってたのはこのことだろう、
小さなテトリスのブロックみたいな木が組み合わさって箱になってたと思う。
※from 【コトリバコ】ことりばこのまとめ【子取り箱】:八+三箱目 開かずの箱, livedoor PICS
この箱は子供を殺してその指の先やハラワタの血を詰めた呪具で、
次に、その木箱の中を、雌の畜生の血で満たして、1週間待つ。そして、血が乾ききらないうちに蓋をする。次に、中身を作るんだが、これが子取り箱の由来だと思う。
コトリバコ
想像通りだと思うが。間引いた子供の体の一部を入れるんだ。生まれた直後の子は、臍の緒と人差し指の先、第一間接くらいまでの。そして、ハラワタから絞った血を。7つまでの子は、人差し指の先と、その子のハラワタから絞った血を。10までの子は、人差し指の先を。
近づいた女性と子供は死に至るという。
女と子供を取り殺す。それも苦しみぬく形で。何故か、徐々に内臓が千切れるんだ、触れるどころか周囲にいるだけでね。
コトリバコ
また、リョウメンスクナの話も少し前に読んだ。これは大正時代に見せ物にされていた奇形のミイラで、とある新興宗教の教祖が大規模な呪いの道具として作成*1したものらしい。
俺 「にわかには信じがたい話ですよね・・・」
息子「だろう?私もそう思ったよ。でもね、大正時代に主に起こった災害ね、
これだけあるんだよ」
- 1914(大正3)年:桜島の大噴火(負傷者 9600人)
- 1914(大正3)年:秋田の大地震(死者 94人)
- 1914(大正3)年:方城炭鉱の爆発(死者 687人)
- 1916(大正5)年:函館の大火事
- 1917(大正6)年:東日本の大水害(死者 1300人)
- 1917(大正6)年:桐野炭鉱の爆発(死者 361人)
- 1922(大正11)年:親不知のナダレで列車事故(死者 130人)
そして、1923年(大正12年)9月1日、関東大震災、死者・行方不明14万2千8百名
俺 「それが何か?」
息子「全てリョウメンスクナが移動した地域だそうだ」
俺 「そんな!教団支部ってそんな各地にあったんですか?と言うか、偶然でしょう(流石に笑った)」
息子「俺も馬鹿な話だと思うよ。で、大正時代の最悪最大の災害、関東大震災の日ね。
この日、地震が起こる直前に天獄が死んでる」
俺 「死んだ?」
息子「自殺、と聞いたけどね。純粋な日本人ではなかった、と言う噂もあるらしいが・・・」
俺 「どうやって死んだんですか?」
息子「日本刀で喉かっ斬ってね。リョウメンスクナの前で。それで血文字で遺書があって・・・」
俺 「なんて書いてあったんですか??」日 本 滅 ブ ベ シ
「うはwwwミームの人とうとう変な宗教にハマったかwww」
まぁそう言わずに珈琲でも飲みながら読んでくれ。僕の精神状態は教科書のように健全だ。
呪い、というものは存在するのだろうか。
存在するのだろうか、という問題提起自体かなり曖昧だな。「呪い」とその「効果」の間に因果関係はあるのか、と言い換えた方が良い。
そして因果関係を説明するために現在最も有効である考え方が科学であり、ニュートンのように新しい体系を開発することが出来ない僕は、「現在の科学体系の枠内で尤もな理由付けをすることは可能か」という視点で考えてみる。
科学的コトリバコ仮説、または暇人の妄想
冒頭でコトリバコの話を取り上げたのは、この話はわりと科学的に説明可能なんじゃ無かろうか、と考えたからだ。
いかにしてコトリバコの作り方が発見されたのかはわからないが、呪具・呪術が発達してきた道はスマートではないし、効果がある方法にも無駄はたくさんあるだろう。その歴史は成果ドリブンで淘汰されてきた結果であり、料理の発達と重ね合わせてみることが出来る。微生物の作用を知らなくても酒造技術は発達してきたのだし、エジプトでパンが開発された頃はパン酵母の存在など考えもしなかっただろう。
- 作者: 石川雅之
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/12/22
- メディア: コミック
- 購入: 16人 クリック: 35回
- この商品を含むブログ (283件) を見る
多くの人間の試行錯誤というものは、時に説明不可能なまま、効果的な法則を発見する。コトリバコの場合、その原因と結果は
幼児および動物の内容物を特定の手順で組み合わせたものに近づくと、女性・子供に限って死に至る/健康を害する。
というものだ。再現性があり、しかも殺して詰めた子供の数によって効果が変わるそうなので、わりとよく体系化された呪いだったのだろう。
死体特有の物質が身体に有害なのか。
もし死体から発生するある種の化学物質や、死体で繁殖する微生物が人間の身体に悪影響を与えるという話ならわからんでもない。もしそうなら、死体に日常的に触れている解剖医や葬儀屋の平均寿命を調べることで検証できる*2。
しかしコトリバコは、ただの死体を詰めた箱ではなく、いくつか特殊なステップを踏んで作成している。例えば畜生(=人間以外の生物)の血と人間の血を混ぜている。化学物質が反応を起こして毒性を持つ物質が生成されたか、血液内の微生物や酵素が通常ではあり得ない反応を起こしたのか。
今でも生物兵器とか化学兵器は"貧者の核兵器"と呼ばれるくらいだし、倫理もクソもない環境で開発されたなら、動物実験どころか、その効果を"本物"で試してフィードバックをかけることも出来ただろう。
女性と子供のみに作用するという点も興味深い。
コトリバコの効果物質は、女性と子供に存在して成人男性には存在しないような種類のレセプターを介して作用する、と考えることも出来る。
あり得ない話ではない。というか、十分あり得る。
遺伝子の制御によって、成長するに従い人間の体内で利用される物質(ホルモンなど)は変化するし、身体の大きさ・構造というマクロな変化としても現れる。たとえば、若年層には聞こえるけれど、大人になるにつれて聞こえなくなる波長域*3があって、コンビニ前でたむろするヤンキー対策に実用化されたとかされてないとか。
大人には聞こえない音/聴力検査FLASH (Mosquito Sound)
日本国内の新型インフルエンザの感染者が高校生に集中しているのも、「ただの偶然」「高校という仕組み上の理由*4」以外に、「高校生だから」という理由付けも一応は可能。まあ豚インフルを母体としている上、他国では広い年齢層に感染が見られるあたり、あまり現実的じゃない仮説だけどね。
呪いは、脳科学/心理学に還元できるか
—とも考えた。しかし、プラシボ効果・暗示・催眠というやつは自分自身が思い込まないと変化が現れない。
そこで、呪いとは「思い込んだ人」と「影響が現れる人」が別の個体でも効果が現れる現象、とするのはどうだろう。"延長された表現型"の脳味噌版だ。科学という価値観が発明されるどころか、言葉が出来るよりずっと前から人間は社会を形成していたのだから、他者の思いを(言語による意思疎通を介さずに)受け取るという変異は、淘汰上の優位性を持つのではないかと思う。
もしこの現象が実際にあるならば、プラスマイナス双方に現れるはずだ。「周囲から評価・期待されると、実際に能力が向上する」「悪どいことをして恨みを買いまくっていると、いずれ報いを受ける」などだ。
もしこれの要因を物理的現象に求めるならば、思考パターン/強さの違いによって発信される脳波やら分泌されるホルモンが違う、という筋道を考えないといけない、か。オーラの泉ですねオーラの泉。あんた死ぬわよ。
...と考えてきたが、
リョウメンスクナの話はちょいと説明できない。人間が相手なら仮説の立てようもあるが、天災を引き起こすほどの呪い、となると現在の科学体系からは踏み外さざるを得ない。
まぁ、科学的に説明できようができまいがどうでも良いというのが本音だが、それ以外の切り口をあまり知らないもので。
戯言を弄するのが好きなのです
たかだか数百年の歴史しかない「西洋科学」という体系に踊らされて、理解できないものを「非科学的」という枠にはめ込んで見捨てることはしたくない。そのため僕は、Richard=Dawkinsが『神は妄想である―宗教との決別』を出した時点で、盲目的ファンであることを止めた。自分自身科学という宗教にハマっている癖に、似非科学や宗教を鬼の首を取ったかのようにdisdisにする人は、控えめに言ってあまり好ましく思わない。
アウシュヴィッツで600万人を殺したのは、「優生学」という名の科学だった。
指定されたページがみつかりませんでした - goo ブログ
科学は「絶対的に良いもの」では決してない。カール・ポパーの言うように、反証可能であるが故に「現実への対応・体系の修正」が行いやすく、同時に現実に落とし込みやすく一般化もしやすい信念体系である、というだけの話。
科学という光によって、なまじよく見えるようになったが故に、見えなくなったものがあるに違いない。僕はたとえそれが「真実」と呼ばれていなくとも、おもしろければかまわない。
結論: 科学者向いてない。
MS5
まぁある意味、僕は変な宗教にハマっているのだろう。フリーダムはまだ遠い。
あー、人生80年か。ツマンネ。たまたま1986年に生まれた僕は、おそらく、22世紀を生きることはできない。現在流行している価値体系の中で生きなきゃならん。
せめて身体を冷凍保存して100年ごとに2,3年生きて行きたいよ*5。id:fromdusktildawnさんも似たようなこと言ってて親近感を感じてからもう一年か。
不老不死、生命の合成、生命シミュレーションにおけるバイオロジーの未来 - ミームの死骸を待ちながら
思えば遠くへ来たものよ。
余談。
もやもや思ってたことを記事にまとめるにあたり色々とWebをうろついていたら、レヴィ・ストロース読みたくなった。
- 作者: クロード・レヴィ=ストロース,大橋保夫
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1976/03/30
- メディア: 単行本
- 購入: 8人 クリック: 88回
- この商品を含むブログ (127件) を見る
他にオススメの本あったら教えて下さい。
余談その2
このエントリのタイトルは@clock9さんにいただいたもので、個人的に気に入っています。今後、タイトルが思いつかないとき公募してみるのはおもしろいかも。