「ビジネスではあるがイノベーションではない。」ドラッカー7つの機会をまとめた。
- 作者: P.F.ドラッカー,上田淳生
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2007/03/09
- メディア: 単行本
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並んでいる順番には意味があって、「成功する確率の高い順」になっているらしい。そこに感心したのでまとめる。
1.予期せぬ成功と失敗を利用する
2.ギャップを探す
3.ニーズを見つける
4.産業構造の変化を知る
5.人口構造の変化に着目する
6.認識の変化をとらえる
7.新しい知識を活用する
8.アイディアによるイノベーション
7つの機会といいつつ八番目があって、これは斬新なアイディアで世界を変える、一般的に「イノベーション」と言うと連想されるもの。これはドラッカー先生によれば、勝率が低すぎて機会ですらないそうな。
8番目も含め、これらの順分けに理由を付けることができる。
この本は以前読んだけど、比較的表面的な理解だった。今回、他専攻の授業を取って課題図書として再会し、読んで考え、いろんな人の解釈を聴き、先生の解説を聞いて、なるほどと思うところがたくさんあった。
第一の機会: 予期せぬ成功と失敗を利用する
どうしてこの順番?
この機会が簡単な理由
努力がない。リスクがない。追加投資ほぼゼロで利益が出る。
気づきさえすればいい
しかし無視され、否定されがち。したがって体系的に探求すべき機会である。
e.g.3Mのポストイット。
元は「はがれやすい、失敗作の接着剤」だった。
第二の機会: ギャップを探す
- あるべきレベルと現実の乖離、不一致
- 定性的
- 内部に存在
- 内部の人間は見逃しやすい
なんでこの順番?
予期せぬ失敗/成功に比べて確率が悪い理由は、ギャップの理由がわからないこと。
「なぜかわからないけどギャップがある」から、その理由を探さねばならない。
第一の機会はもうお客が答えを教えてくれている。そこが違う。
e.g. QIAGENのDNA/RNA抽出キット (プロセスギャップ)
おきまりの手順なのに、一回DNAを抽出するのに数日かかりきりだった。
ここをキット化し、数時間で抽出可能に。(僕も何回か使ったけど、非常に簡単で速い)
第三の機会: ニーズを見つける
- 何がニーズであるか明確に理解されている
- イノベーションに必要な知識が手に入る
- 問題の解決策が使う者の価値観に一致
なんでこの順番?
ギャップ、予期せぬ成功/失敗と比べて顕在化してない。
能動的にニーズを見つけなければならない。
第四の機会: 産業構造の変化を知る
産業が成長し勝ち組形成、安定化
=> 新たな参入の機会
なんでこの順番?
- 四番目以降の機会は外部環境の変化が入ってくる。難しくなる。
- ニーズがあるかどうかわからない。
- 何か大きなうねりがあったから、どこかでニーズが生まれているかもしれない、としか言えない
- 人口構造が変われば産業構造も変わることが多い
- 第五の機会へ
第五の機会: 人口構造の変化
目に見える。リードタイムが明らか、という特徴。高齢化、ベビーブーム、過疎化の人口流出など。
なんでこの順番?
- 産業構造が変化するとニーズが変わるもの。
- でも人口ではニーズが変わるとは限らない。
不適な例. 大量に新生児->数年後にオムツ需要
これはビジネスではあるがイノベーションではない。新たな何かを生み出しているわけではなく、単にチャンスを見逃さなかっただけ。普通の経営活動。
第六の機会: 認識の変化
実体は変わらないのに人々の認識が変わる。
第七の機会: 知識によるイノベーション。
一般に「イノベーション」と言ったら誰もがこのイノベーションを思い浮かべる。花形。
しかしドラッカーは
としている。なお「知識」はテクノロジーに限らない。特徴は
- リードタイムが長い
- 異なる知識の結合により起こる
e.g.テレビ。
開発されたのは1926年、爆発的に売れたのは1959年の皇太子の結婚*2
隠しキャラ (第八番): アイディアによるイノベーション
成功物語にいかに心惹かれようとも、単なるアイディアによるイノベーションに手を付けるべきではない
人間が考え出したアイディアからはじまる。
数が膨大であり成功の確率が低い。しかし、社会は絶対にこれを邪魔してはならない。雇用、新規事業の増加要因となるため、経済活動の源泉となるからだ。
なんでこの順番(「機会」のランク外)?
成功確率が低くリスクが高い。成否を事前に判断できず、運任せな部分が多い。
第一〜第七までのイノベーションの機会を体系的に分析し、組み合わせたときのみ進歩の可能性がある。
第一〜第七までのイノベーションは、社会における変化によって生じたギャップ・ニーズを論理的に分析し、それを通じて生みだされたアイディアを用いて経済的価値を創出する。
一方第八の「アイデアによるイノベーション」は、発想者の頭の中に生じた理想と現実の乖離を解消するためにアイディアを生みだし、経済的価値を創出する。
ただし、アイディアを生み出すための論理的プロセスが存在しない。
余談だけど僕の好きな発想術の本に、アイデアの作り方 (1961年)というものがある。これはおすすめ。めっちゃ薄いけど、エッセンスが詰まっている。昨今の本に書かれているアイデア産出ライフハックは、これの派生版と言っていい。
先生によるまとめ
ドラッカーがこの本を書いた85年*3とは、一つ大きな違いがある。当時はマーケットの変化を掴むのが難しかった。自分の足と目を使って調査し、まとめ上げなければならなかった。
しかし現在ではネットの登場で情報が得やすくなり、問題の多くが解決されている!
とのこと。
感想とか
(7つの機会+1を表にまとめようと思ったが予想外に時間かかりそうなので保留)
アイデアによるイノベーションがさんざん言われてるけど、そもそもこの本の目的が「体系的にイノベーションの機会を分析し、チャンスを逃さない仕組みを知る」ことだから、あえて大げさにdisった感がある。
僕が興味を持ったのは
ハイテクによるイノベーションは、予期せぬ成功/失敗、ギャップ、ニーズの存在と組み合わせることでその可能性を上げることができる。
という一節。
逆に見てやると、新しいテクノロジーだけで市場に挑むのは無謀すぎる、ということ。「いいものを作ればきっと認められる」てのは神話。ベンチャーとか学生起業とか言ってるビジネスモデルは、ほとんどアイディアイノベーション狙い、な感じ。
実はテクノロジーで事業を興すのはリスキーであり、もっと可能性の高いチャンスが存在する
ということを頭に入れておけばよさそうだ。
アイディアと組み合わせる候補として、とくに有望なのが「予期せぬ失敗/成功」だそうな。
予期せぬ失敗なら実験してりゃいくらでもあるので、ひょっとしたら「お前は実験ヘタクソやな。こんなん結果になるか!」と怒られた実験も、イノベーションをおこす可能性があったのかもしれませんね><
しかし注意すべきは、ドラッカーはこの7つの機会(+1)を期待値ではなく確率で並べている点。「実行したら成功するか否か」であって、「どれだけリターンがあるか」ではない。
リターンで考えれば、最も可能性の低い"アイディアによるイノベーション"が最高であるらしい。
誰も考えつかないアイデアによって新しいニーズを生み出し、それをイノベーションまで育て上げるだけの経営スキルを持っていて、運にも恵まれれば、長い間市場を独占できる。
アイディアによるイノベーションは、アイディアを生み出すための論理的プロセスが存在しないからこそ、情報がフラット化した現代においても飛び抜けたリターンを誇っているのである。