京大、山中伸弥教授のiPS細胞続報 @Nature Biotech.
先月話題になったiPS細胞の開発は、Nature誌上で発表された*1。間違い。"Cell"だった。僕もおこじょ嬢にインスパイアされてエントリを書いた(d:id:Hash:20071126)が、一応バイオを専攻する身としてもうちょっと突っ込んでみたい。Natureはどちらかというとコンセプト雑誌で、科学的に[これはすごい]と思われる奇抜な・画期的な内容が載る。で、少し後に姉妹紙のNature Biotechnologyなどに技術的な内容が載る。どちらもインパクトファクターは激高、一粒で二度おいしい。はぐれメタル倒したようなものだ。違うか。
Mycを使わない?
さてメインの"without Myc"だが、Mycとは何で、使わないと一体何が嬉しいのか?
まずはiPS細胞の復習から。iPS細胞とは、身体のどんな部分にでもなれるゼネラリスト(違)な細胞。 induced pluripotent stem cell、という。こいつを作るには、成人細胞に4つの転写因子を加える必要があった*2。
Access : Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts : Nature Biotechnology
Reactivation of the c-Myc retrovirus, however, increases tumorigenicity in the chimeras and progeny mice, hindering clinical applications. Here we describe a modified protocol for the generation of iPS cells that does not require the Myc retrovirus.
そのうちの一つがc-Mycで、レトロウイルスってことはRNAを細胞のDNAに組み入れる作用を持つ因子か。こいつを加えるとiPS細胞がうまくできてくれるんだが、発ガン性(腫瘍形成か?)が上昇してしまう、という問題があったらしい。
で、今回はMycを使わずにiPS細胞を作ることに成功したそうな。その結果得られるiPS細胞数は少なくなったが、質の良いものが取れるようになったらしい。ついでに薬でセレクションかけなくても簡単に回収できるようになった。本当に方法論な論文だな…。
Access : Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts : Nature Biotechnology
It will be important to find factors or small molecules that can enhance the efficiency of iPS cell generation without Myc for the generation of disease- and patient-specific iPS cells.
執拗な安全性の確認。既に臨床を射程範囲に入れてるな。余談だが先月僕が文献紹介で全訳した遺伝子組み換え治療に関する論文でも、しつこいくらいに安全性を強調していた↓
この論文は、ジンクフィンガーヌクレアーゼという酵素を「超々安全」に改造して、実際のヒト遺伝子組み換えに耐えうる頑強性を持たせました、という論文だった。
生体分子を道具として扱うvitroも興味深いが、やはり臨床に絡んでくると興奮も高まるな。