ミームの死骸を待ちながら

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators. We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators. - Richard Dawkins "Selfish Gene"

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators.
We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators.
- Richard Dawkins "Selfish Gene"

タバコが遺伝子にダメージ。しかも禁煙しても治らない(という論文)


能動喫煙が遺伝子にダメージを与え、禁煙しても治ることはない。そんな調査結果が(オープンアクセスだから誰でも読めると思う)BMC Genomicsに載っていた。


we comprehensively examined the effect of active smoking by comparing the transcriptomes of clinical specimens obtained from current, former and never smokers, and identified genes showing both reversible and irreversible expression changes upon smoking cessation.

BMC Genomics | Full text | Effect of active smoking on the human bronchial epithelium transcriptome

昔タバコを吸ってて今は吸ってない人、現在進行形の喫煙者、全く吸ったことがない人。彼らのTranscriptomeを比べた結果、喫煙したことがある人は不可逆的にDNAの発現が非喫煙者と変わってしまっていた。
この結果は、「喫煙を経験した人は、禁煙の有無にかかわらず肺ガン発症率が高い」という事実に合致する。


トランスクリプトーム


トランスクリプトームとは、一つの細胞中の全てのmRNAの集まり。mRNAとは、DNAの一部が転写(transcript)されて生成される物質で、親となるDNAの情報をそのまま含んでいる。このmRNAは後に翻訳(translation)されてタンパク質になり、生体の様々な機能を担うことになる。

なんでDNA自体を解析をしないの?
DNAの並び方は一通りでも、その転写(transcription)のされかたによって働きが違うから。ゲノム解析はもう古い。ぶっちゃけDNA配列読んだって、他と比較しなければ何がどう働いているかよくわからない。現在はGenomeの次のTranscriptome, Proteomeが"オーム解析"の主流となっている。
なんで最終生成物のタンパク質を解析しないの?
核酸の「並び方」が最重要である*1DNA、RNAと違い、タンパク質は複雑な三次元構造で無限に近い多様性をもつ。「こーゆータンパク質だ」とわかっても、それがどういう構造を取ってどういう機能を果たすかは複雑すぎてよくわからないからだ。まだ時代が理想に追いついていないとも言える。

こんな調査結果出したら


「どうせ禁煙しても治らないんだったら、吸いたいだけ吸おう」と考えるDQNがいるかもしれない。しかし注意。この調査は「active smoking(能動喫煙)」に対するもので、「passive smoking(受動喫煙)」は考慮していない。それはそうだ。今までに全くタバコの煙を吸ったことがない人は(不愉快なことに)ほとんどいないだろうし、自己申告制で該当者を募っても確かめる術がない。
ともかく、この論文は「能動喫煙」の話。近しい他人が害を受けなくなるだけでも、禁煙する価値はあるので勘違いのないよう。

…と、非喫煙者かつ嫌煙者がのたまってみる。

*1:とはいえ、RNAはタンパク質ほどではないものの多様な3次元構造を取り、それが結構重要な役割を果たしているという事実がここ10年でわかってきた