金融危機でもインドは強い。インド経済基礎
大手町で開かれたインド経済シンポジウムに参加してきた。
早稲田大学インド経済研究所が主催するこのシンポジウムを、僕は日経新聞の一面にちょこっと載っていた広告から知り、申し込んだ。今まで「インドがすごい」というぼんやりした知識はあったが、それはBRICsの一員として、あるいは理系教育の強さから、という文脈でしか知らなかったため、大変勉強になった。周りはおっちゃんばっかりで、浮いてた気がするが気にしない。
以下の軸でまとめる。
- インドの強みの源泉
- インドの産業構造
- インドの金融と世界経済危機
- インドと日本
インドの強みの源泉
インド経済はここ4年、GDPが年ベース9%という成長率を維持してきた。世界経済が停滞している今年も、7.5%程度まで下落するものの未だ成長を続けると見込まれている*1。消費財のインフレが進んでいるという要因もあるが、それを差し引いても高い成長率を誇るインド。その強みの源泉は、主に
- 貯蓄率と投資率の高さ
- 人口ボーナス
の二点に集約される。
インド企業の利益の源泉は主として内需。ゆえに、国際経済の鈍化が与える影響はさほど大きくない。GDPの37%という投資率に下支えされる35%という貯蓄率は未だ健在で、日本の高度経済成長期における「三種の神器」を初めとして、工業製品の消費は伸びまくっている。
そしてインドは、人口構造が将来有望。人口の65%が25歳以下であり、きわめて「若い」。この若い世代に高い教育を受けさせて価値を生み出してもらえるし、消費者としても将来有望だ。また、中流階級が厚くなっており、車を保有するのは当然、二台目を購入したりお抱えの運転手を雇っている家庭がどんどん増えているらしい。
このようにインドの強みの源泉は金融危機の最中にあっていずれも揺らいでおらず、今後も強い経済成長を維持していくであろうと期待されている。
インドの産業構造
インドは、サービス産業(ITなど)には軒並み強いが、工業は伸び遅れている。実に利益の源泉として60%がサービス業である一方、工業は25%に留まる。これは、中国では工業が45%を占めることと対照的。
この傾向は中国に比べてより「高い」地点からスタートできるという強みではあるが、工業にも有望なマーケットが広がっていることもまた事実。ここで、製造業に強みを持つ日本との相乗効果を期待できるかもしれない。
エネルギー
インドは石油の70%を輸入に依存しており、近年の原油価格高騰でだいぶ痛手を負った。しかし最近新たなガス田が発見され、これが稼動すれば石油の半分を天然ガスで代替することが可能となり、大幅な外貨準備高の節約が可能となる。
起業家精神。
ここ五年、インドでは2万5000もの会社が興されている。
インフラ
インフラ産業は今後有望な市場で、分類としては
- 輸送インフラ(空路、陸路、海路)
- 電力インフラ
- 通信インフラ
の3つが挙げられる。今明確に成功しているといえるのは通信インフラで、91年に国外企業への100%開放を宣言したことが良い方向に影響したという。
輸送インフラは未だ発展途上で、現在国際的な空港は二港、うち一港は既に飽和状態、現在さらに二港が建設中である。道路についても建設が進み、国内道路の4%に60%の交通が集中するという現状は如何様にも改善できる。
インドの金融と世界経済危機
インドの銀行は一行も破綻しない、と、ナラナヤン・バグール ICICI銀行会長は断言する。その要因は以下の通りだ。
欧米の金融機関が軒並み大ダメージを食らった昨今であるが、インドの銀行はアジア通貨危機を乗り越えた経験から、システムとして健全性が高まっていた、という*2。例えば、OFF B/S な資産は法律で認められていないし、証券化商品を初めとする複雑な金融商品にはほとんど投資していない。
というか正確なところ、損失が表面化する前に不動産関連の商品から手を引いていたらしい。数年前、不動産価格が異常なほど高騰しているのを見たインド準備銀行は、国内の銀行にこれらの商品を手仕舞いするよう勧告した*3。結果的にサブプライム問題が表面化したとき、インドの各行は損失を最小限に食い止めることが出来たのである。
不良債券比率は現在1-2%で、今後実体経済への影響が表面化するにつれてこの比率は高まるだろうが、元々健全なので、決して致命的にはならないと予測される。また、外貨準備高は対外債務の100%以上を維持している。
株式市場が下げているのは海外の機関投資家が流動資金を引き上げていることが原因で、インド企業のファンダメンタルへの不安から下がっているわけでは決してない、とナラナヤン氏は強調する。時価総額が資金量を下回る企業もあり、調整が終わると適正な価格に戻るだろうと目されている。
国内の貯蓄を考えれば7%の経済成長はガチで、がんばれば今後数年も9%維持できる可能性もある。
インドと日本
インド政府投資委員会のアショック・ガングリー氏は、インドと日本はまさにこれから新しい経済パートナーシップを構築する、チャンスの時期であると言う。
先日インド主相のマンモハン・シン氏が来日したり、日本の経営者を対象に行われた調査で今後有望な市場が
インド -> 中国 -> ロシア -> ベトナム
の順であるという結果が出たりと、双方歩み寄りの意識がみられる。
大規模M&Aはニュースで取り上げられ、第一三共とランバクシー*4、NTTdocomoとタタ・テレサービスなど協力関係が次々に結ばれている。トヨタやスズキもインド進出に対し未だ強気であり*5、現地企業と同士討ちにならないように気をつけて*6ゆっくり進出してってね!とのことだ。
金融業においても、日本のメガバンクがいくつかインドへの投資を強化している。