働き方のシンプルな処方箋を、エルステッド・インターナショナル永守社長から学ぶ
「すごい人がいるので、はっしゅにも是非会って欲しい」という友人の紹介がきっかけで、先日エルステッド・インターナショナルの永守社長に時間を取っていただいて*1小一時間ほどお話しする機会があった。
ブログ掲載の許可を頂いたので、話したことや僕の思ったことをつらつらと。一言で感想を言えばカッコイイ、となるのだけど。
こんてんつ
- エルステッド・インターナショナルについて
- 「ものづくり」を支援するというビジネスモデル
- ITに特化せず、あくまで「ものづくり」を中心に据えている理由
- 「コンサルやらないの?」という質問への解
- サラリーマンと経営者、日本人であるメリット
- 日本は日本人起業家に優しい。
- 日本は「失敗を許さない国」ではない。
- キーワードは「ナナロク・製造・ボーダレス」
エルステッド・インターナショナルについて
永守社長は電気系出身で、メーカー勤務を経てこの4月にエルステッド・インターナショナルを立ち上げた。理系社長、である。エルステッドoersted(Oe)という磁界の単位を社名に組み込んだのもそういった背景によるのかもしれない。
第一歩として、今年7月(確か)にエルステッド・インターナショナルはこのMakers-INという製造業に特化したポータルサイトをオープンした。日本の中小製造業の情報を海外に発信、同時に国内中小企業の海外展開サポートも狙う。
この事業を選択した背景には、永守社長のサラリーマン時代の経験が存在している。永守さんは工場に出向いて赤字事業部を黒字に転向させ、黒字化したらまた次の場所へ移動する「再生屋」的な役割を任されていたという。
中小の製造工場では、海外と連繋しようとしても情報が集まらない、そもそも選択肢に入らないという現実があった。そうして泣きを見る現場を嫌と言うほど見て来たのだろう、情報格差、非効率な現状をなんとかしようというのが創業の動機であるとのことだ*2。
「ものづくり」を支援するというビジネスモデル
ITに特化せず、あくまで「ものづくり」を中心に据えている理由
エルステッド・インターナショナルがIT・サービス事業に特化せず、あくまで「ものづくり」を中心に据えている理由は、「製造業はより多くの雇用を創りだせるから」だそうだ。
曰く、ITビジネスはプログラムのかける「優秀な」人材に仕事を与えることはできる。しかし世の中優秀な人ばかりではないのが現実であり、むしろ本当にサポートすべき人はそういった層に声を上げること無く存在している。
他方、製造業に関わるために必要なスキルは大きくなく*3、障害者や高齢者にもできる仕事をたくさん創り出すことが可能である。そういう訳だ。
「コンサルやらないの?」という質問への解
中小規模の製造業、しかも赤字から黒字への転向という難易度の高い経験を積んで来たのだから、アドバイザーのような立場で中小の製造業に関われば良いのでは?という質問をよく受けるそうだ。実際REVAMPのようなハンズオンの事業再生屋をやることも考えたが、永守社長は次のような結論に達したという。
たかが10年の経験でアウトプットしていったら将来やっていけないと思いますよ。今はまだインプットしていく時期。身体の動かない爺さんになったら助言する側に回るよ。
含蓄のある言葉。カッコイイ。
サラリーマンと経営者、日本人であるメリット
"効率よくサラリーマンであること"に関する話が目鱗だった。前提として、今の日本の所得税率は以下の表のようになっている*4。
課税所得 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円-330万円 | 10% | 97,500円 |
330万円-695万円 | 20% | 427,500円 |
695万円-900万円 | 23% | 636,000円 |
900万円-1800万円 | 33% | 1,536,000円 |
1800万円超 | 40% | 2,796,000円 |
表からも分かるように、課税所得が900万円を超えてしまうと税率がぐんと上がり、少々の所得増加はむしろ手取額の減少につながるという。手取り換算で所得を増やすには、900万円からおよそ1100万円までひとっ飛びに行かないといけない。 指摘を受けましたので、修正。900万円と901万円ではちゃんと手取りは後者の方が多くなりますね
9000000*0.23 - 636000 = 1434,000 => 税引後所得: 7,566,000
9010000*0.33 - 1536000 = 1437,300 => 税引後所得: 7,572,700
(日本は超過累進課税方式なのでこの式では間違ってるのか?)
だからサラリーマンとして稼ぐのは900万円以下が適度で、労働時間とのバランスを考えると500万円くらいが安定したライン、とのこと。そして、、、
日本は日本人起業家に優しい。
起業の文脈において、アメリカの整った支援制度や市場がよく話題になる(と僕は感じてる。とくにはてな界隈)のだけど、永守さんは、日本の環境も捨てたものではないという意見だった。
東南アジアあたりで会社を作る選択肢も検討したが、現実問題として日本はかなり起業家、それも日本人起業家に優しい国であるという。日本人じゃないと利用できない制度が結構な数存在していたり。
日本は「失敗を許さない国」ではない。
また、一般に言われるほど日本は失敗者に酷ではないという。周囲からの評判も気にしなければどうということは無い。それに、挑戦の結果としての失敗を、きちんと経験として評価してくれる場も存在しているのだ。
会社をつぶした人でも、よくよく追って見れば、今普通に働いたりしている。
先ほど年収の話を出したが、年収500万レベルを「いつでも戻れる」セーフティネットとして据えておき、後は挑戦するだけ。行動できるうちに「やりたいこと」を優先してアクションを起こす。このようなスタンスを推奨しておられるようだった。
キーワードは「ナナロク・製造・ボーダレス」
いわゆる「ナナロク世代の起業」で、しかも製造業に特化して、海外展開を前提として展開しているという企業はさほど多くない。それでいて経済産業省の「わが国の工業」資料によれば*5製造業のGDPに占める割合は未だ21%をキープしており、需要は大きい、のだろう。
狙い所としてはこの市場が有望である証左として、かなりの数のVCから声がかかってくるらしい。しかし、今の所すべて断っているそうだ。
VCから資金を入れてしまうと要所要所で口出しをされて好きなように動けなくなるから、というのがその理由だ。なるほど。これは内定先の社長とも話した話題でもある。さらに言うと、株式公開をすると利害関係者(いわゆるステークホルダー、というやつだ)が増えて、さらに身動きが取れなくなるのだろう*6。
有望な業態。しかし別に狙った訳ではなく、自分の出来ること、好きなことをやってみたら、いつの間にかニッチな場所にいたというのが実際の所らしい。
誰も手をつけていないものなどこの世にない。だから、好きなこと、やりたいことをやった方がいい。永守社長はそう言っていた。
日曜の午後。喫茶店から出たあと、「単月黒字化するまでは休まないことに決めてるんだ」と笑って会社に戻って行った社長の後ろ姿は、やっぱりカッコ良かった。
あわせて(僕が)読みたい
*1:インターンとして働いている学生さんも同席。彼はR使いであるとのこと
*2:と、僕は理解した
*3:いや、スキルの高くない人でも巻き込める裾野の広さを持つ、と言う方が正確かもしれない
*4:参考: [http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/syotoku.htm:title]
*5:白書系はじめとする公式資料って読んでみると案外面白いな。綺麗にまとめられてるし、データの扱い方の実例が分かる.
*6:ちょっと脱線すると、東証一部に上場してるドワンゴがあれほど好き勝手やっている(ように見える)のは個人的にとても興味深い。社長の性格も影響してるのかも、と思う