炎上が拓く新時代を待つより、未来候補に関わり続ける方がおもしろい
久々に凄い本に出会ってしまった。この本には未来が、あるいは未来を作り出し得る候補が描かれている。2009年前半に読んだ中で一番 (...ここで読書記録をさかのぼって確認する)、そうだな、一番好奇心を掻き立てられ、そして未来への期待を感じた本だった。おすすめです。特にここ最近海外ネットの動向を詳しく追って来なかった人に。
クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす (ハヤカワ新書juice) | |
Jeff Howe 早川書房 2009-05 売り上げランキング : 36296 おすすめ平均 地球規模のイノベーションは、静かに、しかし急速に革命を起こす 新しい時代を迎えました。 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ハヤカワ新書の"Juice"というシリーズ。どうでもいいけど大学生協で最初にこの本を見た時、Juiceを「ジュイス」と読んで「...救世主たらんことを?」って呟いたんだ。どうでもいいな本当に。
本書『クラウドソーシング』は、Crowdsourcing - Wikipedia, the free encyclopediaという言葉を作った張本人Jeff Howeによる近年*1の動向レポートと考察。
単に僕が効率的な海外情報収集法を確立していない*2からかもしれないが、新鮮な話題が多く非常に楽しめた。たとえば...
upされた写真に対して対価を払うことで素材として利用できるようになっている。誰でも写真を上げられるので、プロのようなアマチュアが現れている模様。
プロとアマチュアの壁が崩れている、というよりむしろ、プロの水準で仕事をするアマチュア(これをプロアマと表現していたが)が浮かび上がってきている。
Topcoderを例にしてぷろぐらま達の競争が描かれてる場面があったんだけど、恥ずかしながらトップコーダーが何をやってるのかよく知らなかった。web観測範囲内で参加している人がいるのは知っていたが、単なるプログラミングコンテストのような物かと思っていた。
ところがどうやら、互いにコードをパクって改良したり「撃墜」制度があったりするのですね。よくできたゲームだな...しかもTopcoder側は頂点を極めたコードやその過程で出てきた成果物をソフトウェア制作に使うことが出来る、とな。
カレント(Current.com)は、ユーザー投稿型のニュースサイト。
『クラウドソーシング』の中でも言及されていた「カチューシャから逃れて」Dodging Katyushas という投稿ムービーがある。以下の記事から見れる。
もう二年くらい前のものだが、これがすごい迫力。インタビュー中にロケット砲が打ち込まれる。
Kivaは、第三世界の事業に投資する投資家を集い、結びつけるモデル。グラミン銀行に代表されるマイクロファイナンスならぬ、クラウドファイナンス。このモデルは見事に成功し、金を出してくれる人が多すぎるという問題にぶつかったとか。
個人(にきわめて近い事業主)に対するファイナンス...ということで、僕が数ヶ月前に書いた記事にちょっと繋がるかもしれない。
科学の世界でも、特に天文学や生態学など、観察する「目」の数が研究を促進するような分野では取り入れられているらしい。
また、自分自身の研究テーマにきわめて近いところだと、 The Science Behind Foldit | Foldit というゲームがある。人間の直感を助けにしてタンパク質の折りたたみを探索しようというもの。
他に、分散コンピューティング(?)によって効率的にタンパク質シミュレーションを進めようというFolding@home - Mainもある。去年もブログに書いた気がするな。
余談: 日本では何がある?
少し脱線して、本には載っていない日本の例を考えてみる。
まずはニコ動か。ニコ動の「才能の無駄遣い」は心底凄いと思う。最近は、妹に勧められて聞き始めたVOCALOID曲のクオリティの高さに驚いている*3。評判になった曲にはRemix ver.が出たり、アンサーソングが投稿されたり、歌う人がいたりする。中にはプロとしか思えないくらい上手い人も居る。
イラストコミュニケーションサービス[pixiv(ピクシブ)]は、ちょくちょく見る。
まんま「クラウドソーシング」を掲げているのは apolon.jp - 仕事と才能を結びつける、クラウドソーシングサービス アポロン とか。これ、出た時話題になったけどちゃんと回ってるのかな、と興味がある(一応登録だけはしてるけど。
- あと、エニグモの作ったサービスたち。
ネットの炎上は進化の必然?
『クラウドソーシング』読んでるうちに、一昨日のid:fromdusktildawn氏の記事を思い出し、これ、繋がるんじゃないかと思った。該当記事は以下。
ながいなー(※人のこと言えない)と思って読んだが、角度を変えて表現した"枝葉"が多いだけであり、そのロジックは単純だ。要するに三行でまとめると
となる。僕にはこう読めたというだけで、合っている保証はまったくない...のだけど、これを書いたらブコメにスターいただいたので、ふろむだ先生の言いたいことから大きく外れてはいないはずだ。とりあえずそういうことにしておこう。ここで、最後の「権力に執着せず淡々と生きる」ヒントとなる事例が、『クラウドソーシング』に多分に盛り込まれているように思えた。
本書でJeff Howeは、クラウドソーシングのルール10個のうち最も重要な要素として、以下を宣言している。
10. 自分のために群衆に何が出来るかではなく、群衆のために自分に何ができるかを問う
個人あるいは一つの組織で何もかも実行/管理するようでは、もはや旧時代に取り残されてしまう。かといって、クラウドソーシングという現象を「使」ったり「研究し」たりするのでもない。群衆の力を利用して価値を出すビジネスモデルなんです!と息巻くのは、ちょいと違う気がするのだ。
むしろ"群衆"の一員となって、自分自身が利用される。個人的に好きなことをして、コミュニティに没頭する。その上で、Give&Takeで他のコミュニティの"群衆の力"から恩恵を受ける、という、ゆるいつながり。ゆるく楽しく生きながら、新時代の観察者ではなく当事者になれるかもしれない。
こういった生き方も「権力」に執着しない一つの形としてアリなのではないかと思う。楽しそうだし。