ミームの死骸を待ちながら

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators. We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators. - Richard Dawkins "Selfish Gene"

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators.
We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators.
- Richard Dawkins "Selfish Gene"

教科書で金融勉強するより『ハゲタカ』の方が100倍おもしろい(微ネタバレ注意)


これはやばい。最高に面白い。物語にこれほどのめり込んだのは、『神は沈黙せず』か『BRAIN VALLEY〈上〉 (角川文庫)』以来かも。


ハゲタカ(上) (講談社文庫)

ハゲタカ(上) (講談社文庫)

ハゲタカ2(上) (講談社文庫)

ハゲタカ2(上) (講談社文庫)


僕がハゲタカを知ったのはかなり最近で、今月の頭だ。2007年に放送されたTVドラマ(全6回)の、GW再放送がきっかけだった。帰郷時期の関係*1でまずドラマ1,2話を見て、『ハゲタカ』を買って読んで、先週とある先輩の家で開催されたオーバーナイトDVD上映会にてドラマを6話まで見て、その後『バイアウト*2』を読んだ。



鷲津政彦*3

「俺は悪党じゃないさ。正義の味方だ。ただ、世間の正義と俺の正義が違うだけだ」

(p.174, ハゲタカ(下) (講談社文庫))


投資ファンド「ホライズン・キャピタル」を率いる、ゴールデンイーグルと仇名された企業買収のプロ。その神業的な交渉術と頭脳を以て敵を手玉に取り、味方すら欺き、魑魅魍魎渦巻く、常識の通用しない日本社会の深部に踏み込み、確実にその勢力を伸ばして行く。体制を壊し、しがらみを断ち切る快刀乱麻の活躍がとても爽快。
かといって万能超人ではなく、エリートではない荒々しさ・精神の葛藤が描かれることでさらに深みを増しているように思える。特にリンとの関係での、手玉に取られっぷりが好き。



芝野健夫。

いよいよ俺の時代が来るんだ。不動産担保の有無でしか融資の決定を判断しないなんていうつまらない時代が終わって、本物のバンカーだけが正しく評価される時代が...

(p.18, ハゲタカ(上) (講談社文庫))


当初はメガバンク「三葉銀行」の行員として登場するが、徐々に銀行の体制と信念の間で揺れ動き、20年勤めた銀行を辞め、企業再生屋(ターンアラウンド・マネジャー)として様々な企業の再生に関わる。
完全に"自由"な鷲津と異なり、家族や人の道、倫理や常識といったしがらみを抱え込んで悩む、とても人間らしい人物。そんな芝野が鷲津との出会いをきっかけに変化・成長していく様を見ると、"成長"は若者の専売特許じゃないのだな、と思えてとても嬉しい。



鷲津と芝野の二人は三葉銀行の不良債権処理を通じて出会うが、その後もM&A、企業の再生、TOB合戦、生々しい人間感情の駆け引きを通じて、時に切り結び、時に手を組み、幾たびも関わっていくことになる。

その周辺に、日本国の歴史とその負の遺産、企業の闇、アメリカとの軋轢、鷲津の過去、陰謀めいた謎が絡んできて、それでいて最後には伏線が回収され、うまくまとめられたストーリー。
おいしかったです。


TVドラマ版

TVドラマ版では鷲津の「過去のしがらみ」が明示的に描かれていたり、芝野との間に先輩-後輩の関係があったり...といった工夫によって、6話できれいにまとまっている。

そして、TVドラマ版でのみ活躍する人物が、西野治。



彼は物語において、ライブドアホリエモンを踏襲した"時代の寵児"としての役割を果たすことになる。ドラマの幕開けから終演までを繋ぐ重要人物だ。彼も鷲津と同じく反体制・非常識なパワーでもって、世の中を騒がせる。
チョイ役にしてはイケメンすぎるな、と思ったらそういうことか!


このドラマ版、原作そのまんま、ではない。むしろ積極的に壊して、新しい物語を作っている。これはディレクターがスゴイ。ドラマと小説、どちらを先に見て/読んでも、両方楽しめると思う。事実僕はそうだった。正直、NHK見直した...


いろいろ考えるわけですよ


やはり金融は面白い。世の中の動きの核。純粋に興奮する。金融知識を淡泊に覚えるよりも、ストーリーの進行に応じてルールが明らかになっていくこの物語を追った方が、ずっとおもしろいし頭に残る。


特に小説版を読んで感じたことだが、社会での「力」とは何なのだろうか?
"強大なもの"を操るライセンスを持っていること。それは間違いなく強いのだが、ライセンスを持つ者自身は、その闇の部分や重みも抱え込まなくてはならない。
闇も重みも抱え込まないもう一つの強さの形は、「ライセンスを持つ者へのパイプと、彼を動かすためのカードを保有していること」。それが鷲津の「強さ」なのかな、という印象を持った。
具体的には情報収集力と、情報を使った根回し。そして情報の意味を咀嚼する頭脳と、大胆に使いこなす実行力。この4つ。
思うに、最強の勝負師は『開戦の前から勝負は決まっている』状態に持って行くのがうまいのだろう。



また、この物語を通じて、会社とは/働くとはどういうことか?...そう考えざるを得ない。
僕には、小説版『バイアウト』に登場する村岡の存在が印象的だった。曙電機の一課長として登場する彼は、要領よく日々を過ごし、女遊びもするし、仕事もそれなりにこなす。新部署への異動命令が降りかかりかけると、絶妙に上司を操って別の人間をあてがう。

誰が辞めようが、誰が社長をやろうが、会社が誰に買われようが、俺たちには関係ないんだ。そう言ってやりたかった。
だってそうだろ。俺たちはサラリーマンなんだから。上が変わってもサラリーマンであることには変わらないんだから。

(p.332, ハゲタカ2(下) (講談社文庫))


思うに村岡は、当事者意識のない、"受動的"な人間の典型例として出ている。村岡は、曙電機が巻き込まれた大規模な買収劇が終結し、曙が再生へのスタートを切ってもなお、相変わらず飄々と仕事を続けていた。
そして"受動的"な彼は、企業再生屋として名を馳せる"ミスター・ギロチン"こと芝野に呼び出され、首を切られる。そのとき芝野が村岡に対してかける言葉が、心に響いた。

「あなたは、二度にわたって催促した『曙電機のこれから』というリポートを未だに提出していらっしゃらない。確かに数字的には非常に安定した結果をお出しになってはいますが、その一方で、部下からの評価、上司からの評価が芳しくありません。また、お取引先からの評価も同様です。そして、経費を慢性的に私用で使っておられるふしたあるという指摘があります」(中略)

「これからの曙に必要なのは、要領よく結果を出す人じゃないんです。無駄を承知でも一生懸命やれる人が欲しいんです」

(p.440, ハゲタカ2(下) (講談社文庫))


これらの言葉は、働くこと・会社とは何か、という疑問の本質に迫っているのではないかと感じる。


ドラマ版ハゲタカ名言集


最後に、ドラマ版ハゲタカの名言をいくつか。

  • 「日本を、買い叩く!」("Buy Japan out!")
  • 「銀行は金を貸すことしかできない。先輩、そう仰っていましたよね。楽しみです。しがらみいっぱいの日本の銀行に、何ができるのか」
  • 「一緒に日本を買い占めましょう。まだまだ甘ちゃんの、この国を」
  • 「誇りで飯が食えますか?」
  • 「助けにきたんですよ。瀕死の日本を」
  • 「かっこええな。お前はいつもかっこええ。だから駄目なんや!」
  • 「我々はハゲタカだ。最後までハゲタカなりのやり方を通させていただきますよ」
  • 「That's Capitalism.」*4


ハゲタカ DVD-BOX

ハゲタカ DVD-BOX


6月6日に公開される劇場版も楽しみです。というか、僕は完全に「劇場版を控え、ハゲタカ人気を再燃させる」マーケティングに踊らされたクチですね。ま、素晴らしい作品に出会えたことに感謝しよう。

*1:下宿先にはテレビがなく、実家にいる時にたまたま一日だけ見た

*2:『ハゲタカ2』として文庫版が発売されているが、このエントリでは区別のため当初のタイトル『バイアウト』で呼ぶ

*3:写真は[http://www.nhk.or.jp/hagetaka/cast.html:title]より。以下同様

*4:これは最後の最後でガツンと来ます。この言葉を発した者や、シチュエーションなどを全部ひっくるめて素晴らしい