将棋と個性とオープンソース、そこに少しの狂気を添えて。
なんかはてな界隈で田舎とか都会とか流行ってるみたいですがそんなことどうでもよくて。それよりおもろいことがありまっせ。
大阪・梅田の紀伊国屋にて。食事の約束をしていたid:yun__yunを待ちながら平積みされていた『シリコンバレーから将棋を観る―羽生善治と現代』を読んだ。この本の周辺で、またしても面白いことが起こっていたのだ。
- 作者: 梅田望夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2009/04/24
- メディア: 単行本
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梅田さんが「本当に書きたかった」というこの本。SVCで「この著作で全て出し切った」と話していたらしく、サバティカル、完全なる充電期間に入る前の梅田望夫氏最後の力作。その本が、よもや将棋とは。
僕は2006年に『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)』を読み、自覚的に洗脳かつ扇動され人生のギアが変わった大多数のうち一人であるが、初めて梅田さんに尊敬ではなく「親しみ」を感じた。なぜならば、等身大のid:umedamochio氏がこの本を通じて透けて見えたからだ。
人間を一律に語ることは出来ない。
人間を一律に語ることは出来ない。本でも不十分なのに、ましてや一本のブログ記事では人間がわかるはずもない。
しかしブログ記事の魅力は、記事一つ一つでその人の個性を切り出し、切り出した記事の積み重ねから等身大の著者の姿が見え、親しみを感じられるという点にある。
超個人的な「将棋」という嗜好を専門家でもないのに本にしてしまう。著者の個性の一面を切り出したコンテンツとしての本書はブログ記事の延長であり、著者自身がコンテンツとなりかけていた最近の傾向に対するアンチテーゼであり、シェーディングのように等身大の著者を浮き上がらせた。
相変わらずの楽観主義、アナロジーとシリコンバレー論、ちょっと無理のある実体験の一般化。そんなところもぜんぶひっくるめて梅田望夫という人に親しみを感じた一冊だった
梅田さんはすごいわけじゃない。いや、すごいんだけど超人じゃない。人間って、こんなもんなんだ。いろいろな要素が組み合わさってその人の世界を構成してる。その人の「関心の窓」を通じてのみ、人間は世界を理解することが出来る。
梅田さんの窓の一つ「将棋」を高らかに宣言した本書は、どちらかというと『梅田望夫ファンブック』、という位置づけが正しいかも知れない。
コンテンツ自体の魅力も、もちろん。
内容に関しても、将棋の緊張感や戦略、奥深さが伝わってきて、子供の頃一時期ハマった程度の将棋経験しかない僕でも「あー将棋やりてー」と思えた。自重せずにぶっぱなしてるが、それでいて妙に読者の関心を引く。うまい。
文中でプロ棋士の盤上分析をゲノム解析に例えていたが、このへん突っ込むのはヤボなんだろうな。また、観戦記をリアルタイムで配信する試みは興味深く、流石の開拓者精神。あと、「超一流の方程式」が印象的だった。
超一流 = 才能 × 対象への深い愛情ゆえの没頭 × 際立った個性
おそらく「才能」だけでは行動を伴わない理想のようにまったく価値を持たず、さらに「没頭」したとしても一流に留まる。そこに個性が加わることで、他者の辿り着くことの出来ない「超一流」の高みへと上り詰めることが出来るのだろう。
ところでこの方程式に「努力」という言葉が使われていない。これは、好きな対象に「没頭」している人にとっては努力は「呼吸するようなもの」であり明言するまでもないのだろう、と勝手に理解した*1。
長い前置きを終えて本題に入る。
ところで、消毒の人をはじめ、今回の著作に対して「有名になったからって将棋の本とかwww」という反応をしている人がいる。彼らは正しい。正しく正しい。それこそが価値であり、僕らの熟考すべき現象である。
梅田さんは、その才能と運気と個性、そして時流を読む力を使って獲得した(主としてWeb世界における)知名度を使い、今まで蓄積したものを出し切ろうとした。
そして梅田さんは、実際に世界を動かす力があることを証明したのである。
シリコンバレーチルドレンがなんかやっちまったようです
id:Moto_M(@SaitoM)こと西塔さん経由で知った、『シリコンバレーから将棋を観る』全訳プロジェクト。
将棋の世界を地球上に広めるべく、オープンソース的に雄志が集って『シリコンバレーから将棋を観る』を英訳してしまおう、という試みだ。15人程度がGoogle Docs上で翻訳を進め、メーリスで情報共有が盛んに行われている。フランス語プロジェクトも立ち上がっている模様。
って...あれ?
- 終わったどー!!! - 日本にもシリコンバレーを!!!
- カリフォルニア留学記
- えっ、連休のあいだに英訳ができちゃったの?! - My Life Between Silicon Valley and Japan
終わった。。。だと。。。?連邦の集合知は化け物か!投稿時間からすると、僕が梅田でid:natsutanと会っているころには完成していたのか。このスピード感、ドッグイヤーどころじゃないっすね。ブコメでネイティブチェックがどうのという上位レベルの話が出ている*2のが、何よりも圧倒的な速度を示している。今後は編集や習性を行のだが、Brush upのためにはてなグループが作成されている。はえー。
Let's Brushup 『シリコンバレーから将棋を観る』 English version!
公開は7日or8日を目指すらしい。おいおいおい。
ゲリラと組織と狂気の力
僕がこの一件を傍目に見ながら思い出したのは、@ITのハチロクインタビュー でid:isocchiの語った「会社の枠を超え」て、個人同士のゆるやかな繋がりで動く未来だった。
終身雇用が当たり前ではなくなってきて、カンファレンスやユーザーグループ、ブログなど、いろんなところでいろんな人が出会い、つながっているので、会社という枠にとらわれずにプロジェクトができるようになるといいなと思います。
「ハチロク世代」がIT業界を変える日 − @IT自分戦略研究所
例えば、Wiiの『大乱闘スマッシュブラザーズX』というゲームは「ソラ」という2人だけの会社が中心になって、そのゲームを作るためだけに100人もの技術者が集まったそうです。そして、ゲームが完成したら解散。1つのプロジェクトのためだけにチームが作られる、というのがこれからできてくるかもしれないと思っています。
会社がメンバーを決めるのではなく、自らの意思で集まる。いつも同じメンバー、同じ開発手法ではなく、さまざまな経験や価値観を持った人と出会い、絶えず刺激を受けながら常に新鮮な気持ちで仕事ができる、そうなると面白いですね。
現状の企業に勤めて働く形態を統制の取れた軍隊とするなら、今回のオープンソース英訳プロジェクトは、ベトコンやアルカイダのようなゲリラ的組織に通じるところがある。
- 作者: アルバート・ラズロ・バラバシ,青木薫
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2002/12/26
- メディア: 単行本
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ネットワーク、複雑系、六次の隔たり、システムバイオロジー、そして新しいプロジェクトの形。今の理論に収まらないからと無視するのは危険。今の理論の元で生きていく気がないならば、特に。
すでに起こった未来を確固たるものに
未来を現実に引き寄せる一歩目として、もいっちょメタに「具体的なプロジェクトの進め方やノウハウ」をオープンソース的に共有する空間が欲しい。
鉄は熱いうちに打て。ではないが、もし僕と似た考えを持つ人が件のメンバー中に居てくれるなら、熱を持ったうちに、プロジェクトのノウハウをWeb世界に示して欲しいなぁなどと思っています*3。
その点Moto_Mさんの書いた記事は、熱いうちに書いた"学び"で、すごく貴重だなと思う。
「狂った」感覚をメンバーみんなで共有でき、尋常でないスピード感を楽しみながら実感できたのは稀有な体験でした。
終わったどー!!! - 日本にもシリコンバレーを!!!
実は、旧来の人脈・組織・キャリアの考え方に代わる新しいオープンソース的な未来は既に始まっていて、僕らは「すでに起こった未来」であるこの潮流を未だ「特殊なケース」とみなし、体系化できずに扱いかねているだけなのかもしれない。
そして次なる未来を創るのは、旧来の価値観を鼻で笑い飛ばす、狂気としか思えないバイタリティーを持った人々なのかも知れない。