ウェブ時代と併走するスタンドアローン・コンプレックス。博士ネットワーク・ミーティング@京都に参加して
この会合は僕にとって重要なものになる。そう直感したので、京都まで行ってきた。
博士や日本の将来に関するディスカッションや、今後につなげていくためのネットワーキングを中心に考えています。将来のためのネットワーク、異分野専門家との人脈、視野の拡大、志の共有、知的刺激、などなどそれぞれの目的を持ってお越しくだされば幸いです。
博士ネットワーク・ミーティング@京都、開催します! - 赤の女王とお茶を
(...中略...)
博士と銘打ってありますが、知識労働者としてネットワーキングに関心がある方ならどうぞどなたでもご参加いただけます。
もちろんsivadさんに会いたいという動機も大きかったが、ミーティング説明文にうずうずする言葉が並んでいる上、以前sivadさんに紹介されとても気になっていたKGCの柴田さんがパネリスト、そしてあの黒影先輩も参加するとなれば、行くしかない。
内容のレポートはid:yun__yunが既に書いてくれている*1のだけど、まぁ僕もいつもどおりに、無理やり問題を等身大スケールに落とし込んだ後極論にぶっとばして戯言を吐く。
科学と日本。砂上の楼閣。
9月23日火曜日、祝日。京都「ちおん舎」に徐々に人が集まる。13:30、パネルディスカッション「博士の使命と日本の未来」開始。科学政策とか日本の博士・ポスドクの現状について、榎木氏、橋本氏のトーク。
- ポスドクはH17の時点で15000人。これ以降調査は行われていないらしい。
- 教員になれるのは40分の1くらい。
- 自己責任論?たしかに1-2割はどーしょーもないのがいる。
- ぶっちゃけ、ライフサイエンスの博士が一番やばい。電々とかはニーズありあり。
- 大学1,2年で現実を知らない人が多い。
- 頭のキレる人は大学3年くらいで気がつくが、気付かぬ人はそのまま35歳くらいまですごしてしまう。
- 研究室に経営感覚が必要。ラボの経営に外部のプロを呼ぶべきだ。制度上は可能。
株式会社フューチャーラボラトリの橋本社長は、ポスドク問題の最大の原因は文科省にある、という。
以上がそのロジックだ。これが事実ならなんともげんなりしてしまう。
一通りの議論を聞いて、現状を打破するカギは、"マネジメント"か、と僕はとらえた。この概念がいかにして現状を打破するカギとなりうるのか、ちょっと整理できていないが、ドラッカーによるマネジメントの定義をここに乗せておく。
マネジメントとは、現代社会の信念の具現である。それは、資源を組織化することによって、人類の生活を向上させることができるという信念である。経済発展が、人類福祉の向上と社会正義の実現の強力な原動力になるとの信念である。
チェンジ・リーダーの条件―みずから変化をつくりだせ!/P・F.ドラッカー
(...中略...)
現代のマネジメントは、知識の基盤が存在しなければ成立しえない。逆に、それらの知識や知識労働者に成果を上げさせることのできるものが、マネジメントである。しかも、マネジメントだけである。知識を装飾と贅沢の地位から、生産資源に変えたのはマネジメントである。
博士を使いこなせない、あるいは使える人材として育てられず売り込めもしない教授陣にマネジメント能力が足りていないということか?自分の直感に後付け説明するのってめんどいね。
個別に、それでいて結束して*2。
僕にとって、この「博士ネットワーク・ミーティング」という集まりそれ自体の、最も魅力的な特徴は、この計画の目指す「形」であった。スタンドアローン・コンプレックス。孤立した個人でありながら集団的な行動を取る、主導者なき網目の組織。ゆるやかな団結。スケールフリー・ネットワーク。クモのいないクモの巣、自己組織化。
こちらでご紹介されているドラッカーの指摘のように、知識労働による生産においては専門家のネットワークがなによりも重要です。
博士ネットワーク・ミーティング@京都、開催します!(2008-9-23) - 赤の女王とお茶を
個人のライフハックも大事ですが、一つの専門から社会に生み出せる価値は限られてきます。
特にライフサイエンスに代表されるサイエンス・ビジネスでは多分野の専門家による「すり合わせ」型の仕事が必要不可欠なのです。
これは今回ポッと出のPhilosophyではなく、sivadさんは2,3年前から繰り返し、その断片をブログに書かれている。
繰り返し書いているように、民主主義システムの強みたる「集団知」が機能するには、その「多様な」構成員おのおのが「個別に」価値や物事を判断することが必要条件となっています。
これはおそらく経済学における「合理的経済人」でも同様で、市場がうまく機能するためにも必要な条件といえるでしょう。にもかかわらず、「多様で」「個別な」だけでは社会的な力になり得ない。
集団知が機能するには、「集約性」というもう一つの条件が必要なのです。
個別に、それでいて結束して。(2006-12-15) - 赤の女王とお茶を
強い個人の傑出でもなく、烏合の衆が形成するWisdom of Cloudsでもなく。存在感を持った個人、知識労働者の、ゆるやかな結集。VimMも、この形のコミュニティに近い気がしていることもあり、僕自身の中でイメージはなんとなくできてきている。かも。
組織は人間から成るものであるがゆえに、完全を期すことは不可能である。したがって、完全ならざるものを機能させることが必要となる。
企業とは何か/P.F.Drucker
博士ネットワーク・ミーティングの今後
yun__yunのところのコメント欄でextinx0109yさんが指摘されているように、今回のミーティングでは会全体の方針は明確に定義されず、全体の顔合わせ、様子見のような部分が大きかった。今後は核となる理念*3を前面に出しつつ、個々人が生きてくるイベントを重ねる必要がありそう。
と、いいつつ、具体的にはイメージしきれていない。メーリスで議論を重ねていくと良いのかな。
で、宣言しておく。
もし関東で会合を開くなら、できる限りお手伝いしたいと思います。
学生の身分でできることは限られているが、TOKYO(の端っこ)に身を置いている人間の手助けが必要なケースも、多々あるはず。京都の街は実際気に入ったし、初回の「場」としては限りなく最良に近かったと思うが、東京にも面白い人がごろごろいる。参入障壁を下げすぎるとダメだけど、僕の周囲の将来有望な人も連れていきたいし。
僕自身のネットワーキングについて少々
黒影さんは自身のオフレポの中で、
それにしても、ブログ見てますという人が10人位いたのは、正直予想以上でした。
幻影随想 別館: 博士ネットワークに参加してきました
アメリカ辺りじゃ既にそうなっているけれど、ブログって下手に名刺渡すよりも効果あるなあ。
と書かれていた。僕のブログを見ていた人も...元からの知り合いを含めて10人弱はいたのかな。僕はリアルでは無口*4であるため、ブログの饒舌さとギャップがあるようでした。...バランスをとっているのです。ほんとです。
今まで大学名の入った表名刺(1)とネットつながりで会った人に渡す裏名刺(2)の二種類しかなかったのだが、新しくアイボスで「基本的にマジメな表名刺だけど、ブログの存在は知らせたい」シチュエーション用の新名刺(3)を注文した*5。最後にちょろっとここのURLを張っただけ。予想通りみなさんまじめな白い名刺が多かったので、黒い背景の新名刺はちょっと目立つかもしれない。学生時代しかできないヤンチャですね。
バイオアルファブロガーのid:sivadさんとid:blackshadowさん*6にお会いし、いろいろ話すことができた。はてなー冥利に尽きるとはこのこと。そのほかにもはてなーを何人か補足。「ああ、あの!」と言いたくなるIDの人も。
あらかじめプロフィールとWebサイトを見て、何人か「これは是非話をしたい」という人をチェックしておいたのだが、チェックを入れた一人であるakipponさんとは話すことができなかった。と思ったら早めに帰られていたようだ。残念。
2008年。ウェブはまだ進化している。*7
初めてインターネットに触れ、友人と夜な夜なチャットし、HTMLを勉強して好きな小説のファンサイトを作り、箱庭諸島に夢中になったあの時代から10年弱。「あなたは誰?」と訊かれたときに示すWeb情報が必須の時代になっている。所属する組織のページではない。自分自身の分身を「あちら側」に構築することで、ネットワーキングの可能性、視野、経験は何倍にも広がる。
2008年のJTPAシリコンバレー・ツアーの梅田望夫さんの講演中の言葉から抜き出す。
ビル・ジョイが「自分がやらなければ世の中に起こらないことをやる」と言っています。これからの時代をサバイバルしていくというのはどういうことなのかと考えれば、コモディティ化の問題に必ずつきあたる。今の時代がたいへんなのは、自由の代償に、すぐにコモディティ化してしまう危険があるからです。
絶対にコモディティ化しないのは、個の固有性だけです。その固有性を競争力のある状態にしていくことに、どれだけ意識的に生きていくか。これは「勤勉性」とは別のことです。頭がいいとか、勤勉であるとか、ずっと長い時間働いているといったこととは、違う軸の話です。
「世界観、ビジョン、仕事、挑戦――個として強く生きるには」講演録(JTPAシリコンバレー・ツアー2008年3月6日) - My Life Between Silicon Valley and Japan
今回の博士ネットワーク・ミーティングから僕が受けた二番目に大きなインパクトは、id:umedamochio氏の説く"ウェブ時代における個の固有性"と、僕がこの目で見てきた"STAND ALONE COMPLEXの萌芽"が同じ軸から見えることに気付いたことだった。それはとても爽快な眺めだろうと思う。
未だ活動の拠点はリアルに拠らざるを得ないが*8、自己紹介前の情報収集、人と人とのネットワーキングは、もはや次の次元に移行している。いい時代に生きたものだ。
...一番大きなインパクトは、現在の僕の研究事情とあわせて、次のエントリに書こう。
*1:前もこんなセリフ吐いた気がする、と思ったらコレだ->http://d.hatena.ne.jp/Hash/20080513/1210693115
*2:このフレーズはhttp://d.hatena.ne.jp/sivad/20061215#p1からお借りしたものです
*3:僕は前述のようなPhilosophyを核ととらえたのだけど、他の人は別の面に焦点を当てるかもしれない。ポスドク問題とか。
*4:というか声が小さいのです、すみません
*5:近いうちに英語名刺も作る
*6:なかなか人前に姿を現さないらしい
*7:以下、飛躍注意
*8:そのうち家でヘッドセットを付けたまま仕事して遊んで人付き合いして寝る時代が来るのかもしれない。個人的につまらんけど