人工生命まであと一歩、ゲノム合成完了。しかしその合成法が…
何か「ゲノム合成」「人工生命」とかいうキーワードで検索してくる人が多いと思ったら、クレイグ・ベンターがM. genitaliumのゲノムを全合成した、という話が、朝日新聞、中国新聞、中日新聞などで一般ニュースとして取り上げられたようだ。日経新聞にも一面に載ってた。
朝日新聞デジタル:どんなコンテンツをお探しですか?
細菌ゲノムの合成に成功 米「人工生命」作製へ前進 - 中国新聞ニュース
中日新聞:ページが見つかりませんでした(CHUNICHI Web)
人工生命の創造近づく?細菌ゲノムの合成に成功、米研究チーム 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
表示できません - Yahoo!ニュース
科学界的には古いネタだと思っていたのだが、Scienceに掲載されてようやく一般で話題になるらしい。このタイムラグは結構興味深い。数ヶ月ほど遅れているのか。上記のニュース記事は事実だけか、もうちょっと突っ込んでも「悪用が心配される」「生命倫理が云々」というありきたりな言葉でしめているのがちょっと物足りない。WIREDVISIONの記事が、細事にとらわれずちゃんと今までの流れを書いてくれてるのでおすすめだ。
2007年6月の"朝日新聞デジタル:どんなコンテンツをお探しですか?"もふまえてCraig Venter人工生命研究の最近の情報を表せば
細菌ゲノム完全入れ替え(2007/06) + 細菌ゲノム、完全合成(2008/01) = 合成ゲノム、細菌に導入(今年中?)
とでもなるか。
前回(d:id:Hash:20080120)では1990年後半〜2006年あたりの最小ゲノム同定に的を絞って書いたけど、それ以降のステップは順調のようで。そろそろゴールに近づいてきたな。
しかし実際のところ、どうやって長いゲノムを合成した?
確かに重大なプロセスだが、どうにも、「人工生命体」という言葉が一人歩きしている気がする。他のブログとか読んでも、記事のタイトルだけ読んで文脈を考えずに「それは倫理的にいいのか」「もうそんな時代なんですねぇ」「すごいなぁ」と脊髄してる人が多い。いやいや、それ人工生命っていうか既存の生命を人工しただけですよ、みたいな(意味不明)。これ以降もしばらく一人歩きが続く気がする。
むしろ僕はゲノム合成手法の方が気になってしょうがない。何故かといえば、asahi.comなどの"ゲノムの人工合成の概念図"とか簡単な説明を見ると、今の技術で誰でも実現可能に思えるから。
朝日新聞デジタル:どんなコンテンツをお探しですか?
チームはまずゲノム全体の8分の1〜4分の1の大きさの分子を試験管内で化学合成。これらの「部品」を大腸菌に入れ、遺伝子組み換えでくっつけ、大きな部品をつくった。さらに大きな部品を酵母の中で同様にくっつけ、完全なゲノムを合成した。
手前味噌だが、以前の記事でこんなこと書いてた。
しかし、最小と言ってもざっと350kbpはある。PCR用に20bpくらいのプライマーを注文するのとはケタが4個も違う。じゃあどうやって最小ゲノムを合成するのか?これまた地味な作業だ。そしてこれまた生物の機能を利用する。まず通常のDNA合成機でDNAの断片を作成する。正確に合成できるのは50bp程度だろう。この断片を大腸菌中でつなぎ合わせて*5、数百キロbpのDNAを作る、らしい。ひょっとしてDNA合成的にも新しい手法か?目的のために新しい手段を開発していく姿はなんともニュートン的だ。
手法の確認として、今まで扱ってきておなじみになっているMycoplasma genitaliumのゲノムを合成してみたらしい。
JCVI: Research / Projects / Chemical synthesis of the Mycoplasma genitalium genome / Overview
これが成功したことで、最小ゲノムを合成できる目処が立った。
微生物を構成する最小ゲノムと、人工生命の合成 - ミームの死骸を待ちながら
ここで、僕は「大腸菌中でゲノム断片をつなげる」という部分の詳細を省いた。一般ニュースになった今も、正直意味がよくわからない。いや、何が新しいのかわからない。
しかも。張り合うかのごとく報道された、慶応大、三菱化学生命研のこの記事(黒影氏のブクマは科学ネタの宝庫だ)。
慶応大、三菱化学生命研、DNA断片を順番どおりつなぎ合わせ巨大ゲノムの構築に成功 - Biotechnology Japan
慶應義塾大学先端生命科学研究所 (Institute for Advanced Biosciences, Keio University) - 遺伝子をつなぎ合わせてゲノムを構築
慶応大、三菱化学生命研、DNA断片を順番どおりつなぎ合わせ巨大ゲノムの構築に成功 - Biotechnology Japan
独自に開発した、PCR産物などの短いDNAを順につなぎ合わせてゲノムを構築する手法を用いた。生物のゲノムを大きさによらず自由に設計できる、構成生物学の新しい手法として注目される。
とのことだが、どう違うんだろ。
慶應義塾大学先端生命科学研究所 (Institute for Advanced Biosciences, Keio University) - 遺伝子をつなぎ合わせてゲノムを構築
マウスからミトコンドリアゲノム(16 kb)、イネから葉緑体ゲノム(135 kb)を世界で初めて再構築
ベンター氏は「人工生命」を作ること自体を目指す一方、慶応大・三菱化学生命研は「手法」として実用性を求めている感じ…かな。ちょっと違うか。。うーん…競争してるわけじゃないのか?気になってきた。
今日は少々体調が悪く*1研究室に行かなかったため、大学ライセンスを使って論文を落とせない。来週行ったら絶対落とす。そして理解する。
てかそれ以前に実験やらなきゃ、卒論間に合わんな。
*1:精神の状態を如実に反映する正直な身体である