ミームの死骸を待ちながら

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators. We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators. - Richard Dawkins "Selfish Gene"

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators.
We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators.
- Richard Dawkins "Selfish Gene"

レポート晒し-薬剤の開発とリスク回避

いままで、提出→フィードバックを見ないで逃避、してきたレポートという名の恥を晒してみる。紙面埋めるためにいつも適当に書くのだがどうも気持ち悪い。

うちの大学はレポートの書き方の授業がない。誰かに突っ込まれるかもしれないことを期待して。
(たどり着くかもしれないU先生へ:
ネットからコピペでレポートを作ったのではなく、逆ですので。)

参考記事
Pfizer製薬、新薬の開発中止で苦境に - ビジネススタイル - nikkei BPnet

現在、薬剤の開発には


①分子設計・合成 ②評価・臨床


の2通りのアプローチがある。
このレポートでは、これらの手法の発展とバランスについて述べる。

薬は歴史上、

臨床を中心にして発展してきた。特定の物質を口に入れる、匂いをかぐ、または肌に塗る。
すると身体に特定の効果が現れる。いい気分になり、 痛みが収まり、眠くなり、 頭がすっきりする。逆に悪化することも多かっただろうが、そうした先人たちの経験則の積み重ねで薬は発展してきた。
いわば帰納的な薬剤である。

しかし20世紀には、

薬の分子構造を同定し、その作用を解析して逆に薬を設計するようになった。
対比するなら、演繹的な薬剤と言える。



 こうした薬の歴史を考えると、有機化学の発展によって①分子設計・合成という武器を手に入れたことで、パラダイムシフトが起こったと言える。

 フォード社が車の生産を、専門技術を要する開発からルーチンワークに変えたように、

あるいはナップスターにヒントを得たAppleが、
音楽をデータとして販売するiTunesStoreで成功を収めたように、である。

このパラダイムシフト(あるいはブレイクスルー)によって、

それまで「とりあえず試し」て効果を見、経験的に使われてきた薬剤が、
その仕組みを理解する事で効果を予測、
さらには化学合成によって新たな薬剤を開発することすら可能になったのである。

記事にあるPfizerの失敗は、

②評価・臨床を軽んじた結果

である。有望な化合物に期待し、過信し、突き進んだ結果がこのTorcertapib開発中止である。
医療の現場で本格的に使われ始める前に危険性が判明した事は不幸中の幸いだが、Pfizerにとってこれは致命的な経済的損失である。


私は、Pfizerほどの企業が単純な失敗を犯したことは、製薬業界の事情をかんがみるに仕方ないことではないかと思う。

次のような理由である。

薬性を期待して研究する化合物のうち、

  • 実際に市場に出るのは0.01%程度、
  • しかも10年20年といった長期間を要する。

そのため、ある程度開発が進んだ薬は、多少不安があっても商品化まで突き進まないとペイしない。

Pfizerのような巨大企業であってもこの構造は変わらない。
記事には、以下のように記されている。

トルセトラビムについては、血圧の上昇と、どのような種類のHDLが生成されるかわからない点をめぐり、ずっと不安があった。常に影が付きまとっていたのだ


もちろんPfizerもこの危険性は把握しており、それでもやめるわけにはいかなかったのではないか。
ZithromaxやNeurotinなどの特許は既に切れており、次なる収入源を「ささいな不安」で切り捨てる事はできなかったのではないか。

製薬会社にとっては

確かに経済的な打撃であるが、命まで取られる訳ではない。実際に欠陥のある薬剤を投与される患者の方が、
文字通り死活問題である。
その点、製薬業界の外にいても安心できるものではない。

患者個人個人の塩基配列の違い(SNP)によって効果・副作用の度合いが違う
という事実もあるが、製薬会社のリスク回避という論点から外れるため考えないこととする。

以上見てきたようなリスクを回避するために、

どのような研究分野が鍵となるか。

私は、ITが重要になってくると考える。

薬剤がどのような相互作用で、どのような受容体に結合し、どういった効果を引き起こすかをデータとして蓄積する。

そして世界中で得られたデータにアクセスし、シミュレーションを行なう。

また、生体内ネットワークの情報伝達、つまり薬剤が体内でどういった反応を引き起こし、その反応は巡り巡ってどこまで行くのか。危険はないのか。

そういった連鎖まで調べられれば理想的である。

しかしこのような技術の実現には、

情報共有の基盤がない上、
製薬業界の競争関係などから社会面でも難しい。


加えて技術的にも、おそらく今のスパコンでは処理能力不足だろう。ムーアの法則を加味してもその実現はかなり先になると思われ、現在進行形の製薬業界のリスク回避にはなり得ない。

そこで、もう少し穏やかな

―現在、予測可能な技術レベルで実現可能な程度に穏やかな―
ITの利用を考えたい。

Torcetrapibの事例にあるように、副次的な身体への効果については現状では予測する事が困難であり、リスクを下げようとしても限界がある。

故に私が重要視するのは、分子レベルでの機能予測の徹底である。

現在も、コンピュータを利用して薬剤の機能を予測することは日常的に行なわれている。
しかし、長く続いている企業、大企業ほど対象分子を探す段階で「手を動かして実験する」ことに重きを置いているのではないか*1

「シミュレーションで効果を予測する」

ことを専門に行なう、
IT企業に近い、小規模かつ新しい製薬会社を登場させることで、
人海戦術的なスタイルが大きく変わるかもしれない。

*1:憶測。でも急激な内部変化は望めないと思う