BIRD研究成果発表会に行ってきたPart.3
いままでのやつ
d:id:Hash:20061102 Part.1「絶対定量オーミックスからの知識発見」
d:id:Hash:20061104 Part.2「遺伝子破壊株イメージ・マイニング」
「ショウジョウバエ脳神経回路の徹底解析にもとづく感覚情報処理モデルの構築」
by 東京大学分子細胞生物学研究所 Assoc.Prof.伊藤 啓
目的
脳の分析は大きく二つに分けられ、それぞれ問題を抱えている。
これらのギャップを埋める
ヒトの脳はニューロン約1000億、一方ハエの脳は約10万。比較的シンプルなので全体を把握できる。脳内の情報処理機構を可視化してしまおう。感覚情報の入力から情報の統合までを探る。発生課程から追う。感覚情報はInputの定義がしやすい。
可視化
GAL4エンハンサートラップ系統のコレクションを用いて、神経繊維の一部のサブセットを可視化。蛍光タンパクGFTやDsRedなどのレポーター遺伝子を発現させたり、nsybを用いて出力シナプスの位置のみを可視化したり。
そんな情報を統合して、脳を16の領域に分けたマップシステムを作った。(イメージが見当たらない…結構壮観なのだが)
嗅覚系
脳に入る経路はわかっているのでその先を調べた。1次情報が入っていくのは43系統あって、糸球体ごとに異なる情報伝達。二次はわかっていない。行き先の神経を同定したところ
- 95%が触角葉
- 55%がキノコ体
へと入っていった。
情報の末端は特定の場所に集中していた!その場所に由来する二次構造を可視化してみるとゾーンが特定できた。◆
クラスター分類でわかったが、側角とキノコ体で三次情報の伝わりに違いがあった。
側角:二次情報がつくる3つのゾーンのどれかに投射。
キノコ体:三次は二次との空間的相関がないと判明。二次で作ったゾーンにとらわれない広がり。これを(◆↑)の構造と2重ラベリングすると、同じクラスタ間に繊維連結があった。
視覚
ショウジョウバエの複眼は800画素。
1次情報は44の視覚投射神経を同定。中でもlobula領域(繊維束の付け根の方)からの投射は24経路を占める。視覚投射神経を分類すると
- コラム型
- 11経路700細胞。視野の狭い部分に投射する神経が束になったもの
- 接線型
- 13経路65細胞。視野全体に接線型に投射する少数の神経。
中枢はどこだ?
嗅覚・視覚(聴覚も、らしい)には感覚器と脳の一次中枢との間に厳密な相関地図がある。
キノコ体・中心複合体は「中枢」とされていたが、キノコ体は嗅覚だけしか担当してないし、中心複合体に至ってはどの情報も入っていない。まだ中枢には至らなかった。
今までvlpr領域は視覚の高次中枢だと思われてたが、今回の研究によれば視覚聴覚嗅覚すべて投射されえてる。情報が統合されてるかもしれない。
実際に調べてみた。
シナプス密度が極端に高く周囲にグリア突起が囲う、触角葉の糸球体に似たGLという領域が12個あった。また、視覚系コラム投射回路LCや接線型LTも散在。
3種の投射部位はあったが離れていた。vlprではなくさらに高次で統合されるようだ。
まとめ
視覚・嗅覚・味覚・聴覚の感覚系情報を網羅的に追っていった結果、従来注目されていた部位とは異なった所に感覚情報が収斂していた。感覚情報の体系的同定は前例がなかった。
今後は、キノコ体や中心複合体からさらに高次の中枢を探す。情報はどこで統合されるのか。行動実験も役に立つかも。
誰も手をつけていない高次脳領域の構造解明を進めたい。