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ミームの死骸を待ちながら

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators. We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators. - Richard Dawkins "Selfish Gene"

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators.
We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators.
- Richard Dawkins "Selfish Gene"

最近は有給を取って大七酒造の見学に行ったりしている

寿司のネタには地域差があり北海道なんかはそこらのチェーン店でクソ美味いネタが流れてくる約束の地であると言うが,

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レーンに日本酒銘柄が流れてくる土地.それが福島である.

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大七酒造.

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"大七" は僕が大学学部生時代の「なんとなく日本酒美味しい」から「日本酒にもいろいろあるんだな」時代を経て「日本酒最高!!!」へ至るターニングポイントとなった銘柄であり,その見学をしてきたというまさにブロガーといった趣きの大変心温まるハートフルエントリであり今日はあんま戯言系ないです.

経緯

時は遡り,なんでド平日に福島まで足を運んで酒造見学してるのか*1という話を.あれは今から 1 年...いや 1 ヶ月前だったか,まぁいい.私にとってはつい昨日の出来事だが君たちにとっては明日の云々

要するにこういうついーとをして無事選ばれたためである.ブログ書いとくもんだ.ちなみにこの企画は

プロが厳選!福島の酒造が選ぶ日本酒×おつまみを、月イチで自宅にお届け! | クラウドファンディング - Makuake(マクアケ)

↑の一環,震災で被害を被った福島の地域活性化的なサムシングでやっているシロモノプロジェクトらしい.

プロジェクトメンバーに古いネットの知り合いがいたりして面白かったりしたが,その方は僕を主にブログでのみトラッキングしており最近まで日本酒飲む勢とは知らなかったらしい.確かにシャカイジンになり「あっ仕事つらい」期に酒浸った経緯などはブログに書いて居なかったなぁ.今は辛くなくなったけど日本酒の美味しさには浸り続けていると.いい話ですね.

大七酒造概観

時は戻り大七酒造の見学.大七酒造は...えーと,福島県の有名酒造さんで,作るお酒の特徴としては"きもと"の代名詞みたいなところがある."きもと" ってのは漢字では "生酛" と書いて,日本酒作りの中で"酵母"を育てるプロセス,その最古の造りを指す.以下ちょっと詳しく説明を試みる.

例えばワインはぶどうの中に糖分があって,ぶどうの皮なんかに住み着いてる酵母がその糖分をアルコールに代謝する...化学式で書くと C6H12O8 -> 2C2H2HO + 2CO2 こんな感じ,なんだけど,日本酒の原材料は米で,米自体はさほど糖分を含まない.なので,前処理が必要になる.米に含まれるデンプンはコウジカビ(糸状菌の一種)によって分解されグルコース(糖分)とアミノ酸を生成する.これを「糖化」と言う.

「糖化」されたらようやく状況はブドウに並ぶ... と言いたいところがそうでもなく,米さんチームは「酵母」を持っていない.酵母は真菌の一種なのでまぁ生物だ.パスツール以降に生きる我々としては,生物さんが戦闘に加わるためにはどこかから降臨してくれないといけないと知っている.酵母は糖分を元にアルコールを創り出す役割なので,なんとかしてどっかから酵母に来て貰わないと「サケ」どころか単なる「甘い米汁」で終わっちゃう(これはこれで美味そうだが).

で,古くからサケを作ってきたお蔵さんには酵母が住み着いている.米をシャコシャコ擦りながら酵母が健全に育つのを待つ(このプロセスを "山卸(やまおろし)"と言う)のが伝統的なお酒の作り方,"生酛造り" である.元々は自然発生的に入りこんだ酵母だったんだろうが,顕微鏡もないまま,見えないものを信じて作業を洗練させ酒を作り続けた先人には本当に頭が下がる.

ともあれ,むかし(昭和以前)はむしろ普通の作り方だったんだが,その生酛造りにえらい時間がかかるってんで,戦前ごろから「酒造りも工業化や!」言うて,精製した酵母粉末をブチ込んで三分クッキング的な酒作りが主流になった.これを "速醸もと(酛)造り" という.ありとあらゆる酒蔵が "速醸酛" 方針へ転換する中,「いやウチは昔ながらの生酛造りで行く」と決断したのが大七酒造の八代目で,当時は多分時代遅れだのなんだの批判されたんだろうけど,結果的に現代まで生き残り良い酒を作り続け,今の地位を確立した大御所中の大御所... という認識でいる.いま Wikipedia みたらなんか山廃,生酛,速醸酛の分類で議論が怖い感じっぽいのであまり触れないことにする.後は専門家に任せた.

生酛系の酒母造りは、長い歳月のあいだに日本人が自然界の法則を巧みに利用して完成させてきた、以下のような酵母の純粋培養技術である。

生酛系の酒母の中では、じつに多様な菌が次々に活動して生存競争を繰り広げる。どのようなライバルの菌がタンクの中に同居しているか、また生育環境のpHはどれほどか、などによってそれぞれの菌の最適な生存環境が異なるため、菌たちの勢力の序列は刻々と推移するのである。

初めは硝酸還元菌、野生酵母、産膜酵母が隆盛を極めるが、酒母造りの5日目ごろを境にそれらは乳酸菌によって駆逐され急減していく。

一口に乳酸菌といっても多様な種類があり、大きく球型と稈型に分けられるが、12日目ごろは球型乳酸菌が、15日目ごろには稈型乳酸菌が隆盛のピークを迎える。しかしそれぞれのピーク後は、それらもやがて自らの生成した酸によって死滅していく。

このころに酒母は乳酸をたっぷり含んだヨーグルトのような状態となっており、もはや雑菌や野生酵母が入り込める余地はない。それを見極めると杜氏は、乳酸に強い清酒酵母(本来は蔵に棲みついている「蔵つき酵母」「家つき酵母」)を投入し、じわじわと増殖・培養させていくのである。

このように投入された清酒酵母の中でも、生命力の弱いものは途中で淘汰されていく。生存競争を生き抜いた強健な酵母だけをじっくりと育て、またその年の気候や酒米の状態などを考慮し、最適と思われる系統だけ選抜育成して醪の醗酵に用いることになる。

生もと - Wikipedia

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杉玉とサケタンク・瓶の一軍.なんかいい匂いする.

杉玉(すぎたま、すぎだま)とは、スギの葉(穂先)を集めてボール状にした造形物。酒林(さかばやし)とも呼ばれる。日本酒の造り酒屋などの軒先に緑の杉玉を吊すことで、新酒が出来たことを知らせる役割を果たす。「搾りを始めました」という意味である。

杉玉 - Wikipedia

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酒造り人たちはこのステンドグラスを見て酒造りという神聖な儀式に挑む心を整えるとのこと.アイテー企業の受付にも作ると良いと思う.ステンドグラスのみならず,"生酛造り" イメージから連想される古さとは打って変わり立派な洋館風のオフィス.

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客人を迎えるエントランスホールには大七銘柄の数々が見事にディスプレイされている.

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酒造の見学

先に「"生酛造り" イメージから連想される古さ」と言ったが一枚ひっぺがすと全くそうではなく,伝統を守りつつも,精米歩合パーセントの数値にとらわれず本当に効率的に米の芯だけを残す削り方"扁平精米"の開発,また酒は可能な限り空気に触れさせない方が良い,という信念に基づく"真空充填"の確立など最新技術の開拓にも余念がなく,これが王者かといったところ.

ちょうど新酒を絞る時期でつい最近まで忙しかったのだと思うが,酒蔵の中まで見せていただいた.唎酒師試験に受かるも年会費の高さに心折れた勢としては実際のプロセスをナマで見て「ああこれがあの」と感心することしきりである.

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ほらこれですよ奥さん,真ん中のステンレスの桶が"山卸し"やって酵母を育てるやつ.壁には移転前の蔵から"酵母が付着してると思われる"木板が立てかけられており,工業と生物育種のマリアージュが面白い.

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ふなしぼりの"槽(ふね)"です.エヴァっぽい.

「ふなしぼり」とは「槽(ふね)」という昔ながらの道具で、圧力をかけずにもろみを自然な重みで絞ったもの。雑味が入りにくいため、本当の酒の美味しさが味わえます。

「しぼり」編 - 南部美人のこだわり - 南部美人

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震災の時に設置したという,入る前に塵を吹き飛ばすエアーシャッター的なもの.

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あと関係ないけど印象的だったのが,取引先ですらないイチ見学者の我々がオフィスの隣を通り過ぎる時,事務職と思われる社員さん方がビシッと起立して深々と頭を下げて見送られたこと.

試飲

世の中には体験しないとわからないものがいっぱいある.たとえば酒の味である.というわけで試飲ターーーイム!!!

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紹介が遅れましたが奥の気品あふれる紳士が大七酒造十代目現当主,代表取締役社長の太田氏である.東大法学部卒からの大七酒造入社,20年弱前に社長に就任したとのこと.見た目通り物腰柔らかいものの,熱い語りから酒造りへの信念を感じる社長さんです.お忙しい中時間を割いていただき直々に酒造の説明を受けたり一緒に試飲させて頂いたりなど.手前の味方ポケモンっぽいのが僕です.

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ポケモン酒を呑む. 先にネタっぽいついーとを掲載したが,奥に映ってる"大七 純米生もと" は個人的に「あっ日本酒って銘柄によってこんな違うんだ」「つーかなんだこれ美味い ...大七?」と目覚めるきっかけになった思い入れのある酒で,社長が「やっぱり日々の晩酌で飲むなら "純米生もと" ですね」と仰っていたのは大変うれしいものでした.

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リーデルグラス の日本酒専用機.

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結局こんなラインナップで試飲させていただきました.先述の "純米生もと" はもちろん僕の大好きなやつなんだが,他にも大七梅酒は完全に日本酒飲まない勢を引き込む裾野の広さを持ってるし,"箕輪門" はけっこうな高級酒のはずなんだけどしれっと出てきてたまらない.

いじょ

近況は以上です.日本酒好きでほぼ毎日飲んでるんだけど,大して知識がないために詳しく熱く語らないタイプなのでみなさん気軽に僕と飲んで行きましょう.渋谷-目黒近辺で良い店巡る仲間を募集しております.

*1:なおヘーシャはカジュアルに有給取れるし待遇もよいのでそこそこ腕に覚えはあるんだけど激務ツライな方はご連絡ください