ミームの死骸を待ちながら

We are built as gene machines and cultured as meme machines, but we have the power to turn against our creators. We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators. - Richard Dawkins "Selfish Gene"

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We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators.
- Richard Dawkins "Selfish Gene"

内定をもらった学生が入社前にやっておくべきたったひとつのこと


遊べ。以上。



あっ、嘘です、すいません石投げないで!マジメに書くから!


「入社前にやっておくべき事は何ですか?」


内定者が社会人(場合によっては入社予定の会社員)に対して提示する質問のテンプレートとも言えるのが、表題の

「入社前にやっておくべき事は何ですか?」


だろうと思う。僕も聞いたし(入社する会社の人ではなかったが)、逆に学生から聞かれたこともある(これまた所属する会社とは関係なかった)。
みんな不安だし、失敗したくないと思っている。いくばくかのやる気はあるし、そのやる気を振り向ける先を捜している。やる気を振り向ける先を見つけ、周りに対してアドバンテージを取りたいと思っているのかもしれない。あるいは自信がなく、先が見えなくて、戸惑っているのかもしれない。

やりたいことがわかりません!とか言う人もいるが、気にすんな。そんな簡単に見つかりゃしねぇよ。


さて、意図はどうあれ、僕はこの種の質問は嫌いじゃない...いや、むしろ好きだ。下手をすると安っぽいテンプレート回答*1に成りかねない、簡潔かつデリケート、それでいて回答者の哲学が試されているような、興味深い質問だと思う。


学生が「学生の内にやっておくべき事はありますか」と聞くとき、本当に知りたいのは、一般的な答えではないと僕は信じる。そうではなく、学生が知りたいと思っているのは、その人の個人的な意見、偏見、主張、個性なのである。

それ故に、学生からこの種の質問を受けたときは、それなりに考えて返答するべきだと思う。逆に、学生が社会人にこの種の質問を投げかける時は、ちゃんと考える時間を与えてあげて欲しい*2



この記事では「入社前にやっておくべき事は何ですか?」という問いに対して、僕がそれなりに考えた結果を提示したいと思って書いた。しかし結論だけにフォーカスするのではなく、よくある回答例に対する僕の意見を展開しながら、徐々に「Hashが(今の時点で)しっくり来る回答」へと進んでいくとする。


こんてんつ

  • 「入社前にやっておくべき事は何ですか?」
  • 「社会人は遊べないが、学生は遊べる」という真理
  • 「学生の本分は勉強」の欺瞞
  • 「入社する会社で働く」という無意
  • 「記録を以て不完全を知る」

「社会人は遊べないが、学生は遊べる」という真理


実は最初に書いた「遊べ」という一言も、あながち間違っちゃいない、、、と、僕は考える。少なくとも真理の一端を端的に表している。その真理とは、極々単純化・極論化してしまうと


「社会人は遊べないが、学生は遊べる」


というものである。この誤解を生みそうな一文にはそれなりの注釈が必要だろうが、この文章は学術論文でもなければ対話ですらなく、そもそも元来そんなことする義理もありゃしねーので適当に脳内補完をお願いします。


さてこの「社会人は遊べないが、学生は遊べる」という幾何かの真理は、元を正せばより広範な概念へと拡張できる。すなわち

「学生の内にしかできないことをやれ」

より汎化して
「今しかできないことをやれ」


という概念へと拡張可能であり、特に最後の概念は、今現在も僕の行動規範のひとつになっている。



しかしここに大問題、不可避な障害が発生する。学生の内にしかできないことを学生の内に見つけ出すことは容易ではない、という単純極まりない事実だ。耳障りの良い言葉の真意をよくよく考えてみれば、それは、未来を見通せと要求されているに等しい。

「学生の内にしかできないこと」は、「学生」という肩書きを失ってから「学生時代」を俯瞰することによって初めて浮き彫りになるものであり、いくら先人の言葉を聞いても、腑に落ちて理解できる類の思考ではないのである。


「学生の本分は勉強」の欺瞞


もちろん学生が学生の内にしかできないことの最たるものは「勉強」であり、これは学生の本分でもある。しかしそんなことはみんなやっている*3。勉強が忙しいとか「レポートが...」「試験が...」とか、そんな理由で他のすべての機会をドブに捨てるなんざ阿呆のやることだ*4。それだけでは、つまらん人間になってしまう。


本質はここだ。みんなやっているレベルを超えた「勉強」を実践するには、只の学生であるだけでは"足りない"のである。


要するに「入社前に、学生のうちにやっておくべき事は何ですか?」という質問に対する「しっかり勉強しろ」という回答も、回答として十分な堅実性を備えている。しかし問題は、周りからひとつ図抜けるだけの「勉強」、「何をしてきたの?」という質問に対して胸を張って「勉強」と応えられるだけのQualityとQuantityを、あなたは実現できますか、という話だ。これに胸を張ってYesと応えられるなら、何も言うことはない。企業はそうした専門型の学生を一定数求めている事は確かなので、自信を持って勉強に打ち込めばいい。


少なくとも僕は、この自問に「Yes」と応えることが出来なかった。



「入社する会社で働く」ことの無意


「入社予定の会社でアルバイト・インターンとして働く」


という選択肢がある。自由度の高い企業や規模の小さい企業は、学生のこういった提案を受け入れてくれる土壌を持っているところが多い。中にはほとんど社員と変わらない時間を会社で過ごす人もいる。


前もって環境に入ってしまうことで社内の雰囲気が分かるし、同僚と打ち解けられるし、具体的な技術や知識を身につけることが出来る。そしてより魅力的なことに、ここで得た技術や知識は決して無駄にならない。

僕の正直な意見を言ってしまうと、入社予定の会社で働くことは、仕事の役に立つ*5というか、唯一これだけが、直接仕事の役に立つ*6


ところが、ここで根本的な疑問が発生する。


「でも、それ、入社してからでよくね?」という素朴な疑問である。


つまり、僕の意見はこうだ。仕事ができる社員になるために極めて有意義な「学生のうちから入社予定の会社で働く」という選択肢は、何のことはない、ただ単に「一足早く社員になる」というだけの話だったのだ。

早く社員になるだけであって、内定者がやるべきことではない。この選択は学生であることそれ自体の価値を完全に放棄しているし、意地悪な見方をすれば、学生であることに自分自身で価値を見いだせなかったから、上から意味を与えてくれる社員になりたい、という「俺なんも自分で考えられません」宣言であるとも考えることが出来る。


すなわち冒頭の質問に立ち返れば、

「入社前にやっておくべき事は何ですか?」
「入社しろ」


という意味の分からない禅問答になってしまうわけだ。こいつは、いただけない。

せめて、意欲と時間があるなら他社で働いた方がまだマシだ。最初からひとつの会社しか知らないと、盲目的になる。画一化は観念的な死である。そうではなく別の会社を経験するならば、入社する会社を立体的、客観的に見ることが出来るようになる。 つまり、自分の中に比較対象を持つことができるのである。


「記録を以て不完全を知る」


いよいよ僕の主張の核心に近づいてきた(長ぇよ)。 いくつか回答例を挙げてみたが、正直、学生時代にコレをやっておけ、というものはないと思う。そこはそれ、個々人の価値観だ。世界の各所を放浪したい人も居るだろうし、インターンやらアルバイトに熱心な人もいる。研究が面白くて面白くてたまらない人も居るだろうし、完全な趣味人にジョブチェンジする学生も何人か知っている。

いろいろ志向はあるけれど、僕の偏った視点に基づいて大多数の内定者に薦めたい*7のは、


「記録しておけ」


ということだ。これが僕の回答である。

Methodologyはどうでもいい。只僕は、視点は多い方が良いと判断したから(そして不特定多数に自分の思考を晒すという露出狂の快感に目覚めたから)ブログにいろいろ書いていただけであって、誰もが僕と同じ方法を取るべきであると主張しているわけではない。僕のようにWeb上に晒け出しても、Digital媒体で保存しても、紙に書いてそっと閉まっておくのでもいい。文章じゃなくたって、写真に取って視覚的に定着させるのも楽しいし、ひたすらいろんな人と交流して、"記憶の数"で稼ぐのもアリだ。ロバストネスとリダンダンシーである。


Methodsのひとつとして、シューカツ特有の「自己分析」なる道具を使うのも悪くないし、僕は高校の同級生に勧められて知った「絶対内定」という本がわりと好きで、今でも記録の視点の参考にしている(ちなみに僕が持ってるのは2008年度版だ*8)。


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形はどうあれ、とにかく記録/証拠に残しておかないと、自分は昔から何でも知っていたという傲慢を招きかねない。記録によって、自分の不完全性を自覚することができる。今どれだけ情報を集めて、どれだけ思考を深めたつもりであっても、将来の現実を予測できる可能性はとてつもなく低い。

しかし記憶のみに頼ってしまうと、予測が外れても外れた予測のみに注目して「運が悪かった」なんて思っちゃったりして、予測を外した自分自身の"あてにならなさ"を、意識の外に追いやってしまう危険性がある。


記録が重要性を持つのは、人間の記憶というものは本当に当てにならないからであり、これは僕の信念の一つでもある(なんというか、後ろ向きな信念だ)。
繰り返すが、僕は確信を持っている。自分の記憶を信頼すべきではない。記録を使え。人間の記憶なんてのは、アテにならないものだ。いや、アテにならないどころか、都合の良いようにそれ自身を自動的に再構成する、抜け目のない詐欺師と疑ってかかるべきだ。

仮にある人間が、一つの罪を犯したとすると、その罪は、いかに完全に他人の眼から回避し得たものとしても、自分自身の『記憶の鏡』に残っている、罪人としての浅ましい自分の姿は、永久に拭い消すことができないものである。これは人間に記憶力というものがある以上、やむをえないので...

この記憶の鏡に映ずる自分の罪の姿なるものは、常に、五分も隙のない名探偵の威嚇力と、絶対に逃れ途のない共犯者の脅迫力を同時にあらわしつつ、あらゆる犯罪に共通した唯一、絶対の弱点となって、最後の息を引取る間際まで、人知れず犯人に付纏ってくるものなのだ。

...しかもこの名探偵と共犯者の追求から救われ得る道はただ二つ『自殺』と『発狂』以外にないと言ってもいいくらい、その恐ろしさが徹底している。世俗にいわゆる『良心の呵責』なるものは、畢竟するところこうした自分の記憶から受ける強迫観念にほかならないので、この強迫観念から救われるためには、自己の記憶力を殺してしまうより他に方法はない...ということになるのだ。

(『ドグラ・マグラ (下) 』, p.270)

外れた予想と記録の揺るぎなさ


僕自身、学生から社会人になって、予想していたものと全然違って驚いた。いや、僕の予想が浅すぎて薄すぎて、その甘さといったら吐き気を催すほどであった、と告白した方が正しい。

「大企業でしかできない経験」というものは、確かに存在するのだろう。大きな仕事をやろうとすればするほどチームで働くことが重要になってきて、その一員としていかに貢献するか、どうすれば最終的に成果を出すことができるか、という点を学ぶことができるはずだ。社会人の初めにそういった「型」を身につけるのは確かに大切なのかもしれない。僕も最初はこの考えだった。つまり外資大企業で基礎を築いた後、ベンチャーに行こうと思っていた。

しかし、ここで一つ問題がある。「大企業で働くうちに、悪く言えば"洗脳" されてしまい、次に向かって動けなくなるのではないか」という可能性だ。

"新卒は外資の大企業"と思っていた僕が最終的にベンチャーを選択した理由 - ミームの死骸を待ちながら


否、ベンチャー企業においても洗脳は存在する。洗脳というと聞こえは悪いが、順応と言うと正当に聞こえる。要するに自身を環境に適応させて効率化を図ろうとする意志であり、人間が「適応」しようとするのは、身体の奥底に染みついた、生き残るための本能のようなものなのだ。

着実に手を広げている話を聞いて興奮する。中国に開発チームを持っているのだけど、ひょっとしたら、中国に限らず新興国にぶっとばされるかもしれない。というか、ぶっとばされて追い詰められたい。

内定先が素晴らしすぎる件。または、自分自身が居るべき場所を確信できた人間は強い - ミームの死骸を待ちながら


はい残念。現在ぼくは普通に日本で働いている。えーそんなの普通じゃん。

そう、普通なんだよ。この事実からわかるように、僕が当初想定していたよりもこの会社は「ちゃんとした会社」である。それでいて、色々とカオスであったりもする。ベンチャーと「ちゃんとした企業」の特徴を持っているため、よく言えばダブルでうま味があり、悪く言えば中途半端、だ。

ついでに言うとこのへんの「どっちつかなさ」から何を得るかは自分次第だと思っているので、別段不満があるわけでもないし、選択を後悔しているわけでもない。完全な会社はないことは了承済みだ。完璧な絶望が存在しないようにね。ただ僕はきちんと現実を飲み込み、その上で理想を掲げないと、潰れて溺れて埋もれてしまう。何事も自分次第だと、僕は信じる。



記録によって理想と現実の違いが浮き彫りになった。ところが、僕は僕自身の選択を微塵も後悔していない。この一点に限っては自分を誇っていいかも知れない。


まとめる。


本題に戻ろう。まぁ、というわけで僕の意見は「記録を残せ」の一言に尽きる。
将来を見通したつもりで行動しても、どっかが抜けるし何かを忘れて、そしてどこかでヘマをする。人間、そこまで頭が良くないし、要領も良くない。たいていの人は。


僕は僕の意志で以て、現在の環境から吸い尽くせるだけのものごとを吸い尽くしてしまうつもりでいる。
吸い尽くしながら、僕はここに踏みとどまって、ちゃんと成果を出してみせる*9。そこに理不尽があれば解消しようとするし、機会があれば殺してでもうばいとる*10。そう思いながら、粛々と「出来ること」を拡大している最中である。
それもこれも、記録による不完全性の自覚のおかげである。いやと言うほどの不完全性の自覚が、僕をこの背水の陣に縛り付けている。


だからこれを読む内定者の人も、是非、残り少ない学生生活を有意義に過ごしてください。そしてもし気が向いたら、その有意義」の感情と事実を、ありのままに記録して、入社後に読み直してみてください。


そこに、何かあなたにとって大切な発見があるだろうと、僕は信じる。


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*1:それこそ最初に挙げた「遊べ」onlyとかね

*2:質問を投げた後にいきなり答えを求めてじっと目を見つめるとかじゃなくて、適当な言葉をふらふらとやりとりしてプレッシャーを与えないように、相手が自分自身でしっくり来る答えを捜す時間を稼ぐ

*3:まぁ「みんなやってることをやること」に対しどう思うかは、個人の哲学に任せるしかないのだが。

*4:事実を言ってしまえば、一部の行動的な学生は掛け値なしに忙しいが、そういった人は得てして「忙しい」というワードを口にしない

*5:と、思う。ちょっとバイトはしかけたけど実際何もしてないようなもんだし

*6:正確には「役に立つ可能性がある」と表現するべきか

*7:残念ながら「全員」ではない。記録するためのコストを別の者に振り向けたいと思う人も居るし、記録それ自体が自身を縛る可能性をよく知っている人も存在するからである

*8:就活したのは2010年度生だが正直内容はほとんど同じ。2010年はちょっとカラーになってるくらい

*9:こうしてちゃんと大言壮語を吐かないと、日々の仕事に埋もれて理念を忘れてしまう

*10:元ネタを知らないと普通に物騒である